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東大阪市にあるハードロック工業は、明石海峡大橋や東京スカイツリー、それに新幹線にも使われる「絶対に緩まないネジ」で知られる。
若林克彦社長には苦い思い出がある。建設現場でよく見かけるくい打ち機に使われたネジが振動で緩み、機械が壊れたとクレームを受けたのだ。「絶対に緩まへんのと違うんか!」
「絶対」をうたう怖さを知った。同時に「よしっ、どんなことがあっても絶対に緩まないネジを作ってやろう」と奮い立った。そして、散歩の途中に立ち寄った住吉大社の木造の鳥居を見て「これや!」とひらめいた。
継ぎ目に楔(くさび)が打ち込んである。ボルトとナットの間に楔を打ち込めば緩まないはずだと考えた。試行錯誤で何度も試作品を作った末、ナットを2つの部分に分け、一方が楔の役割をして、締め付けるともう一方のナットとボルトの隙間にがっちり食い込むようにした。
「信頼はゼロに落ちた」(川崎社長)という神鋼が立ち直るには、苦難の道のりと長い時間がかかるだろう。学ぶべきは町工場の技術者の誇りである。