「今まで人の持つレジ袋に関心をもったことがあるだろうか」。目の前を流れるたくさんのモノやサービス。このおにぎりはどうやってここにきたのか。市川さんは初めて、モノの流れに興味を持った。
大学院に進学した市川さんは原発などプラントや交通インフラの運転ミスや誤操作が発生する仕組み、防止策などの研究に取り組んだ。
全国だからこそ
仙台市で開かれた就職説明会に参加した市川さんは、偶然JR貨物のブースに立ち寄り、震災時に行われた石油列車の取り組みを知った。情報を集めていくと、普段使わない経由地やディーゼル機関車を駆使した緊迫した輸送作戦だったことがわかり、胸が熱くなった。「全国で鉄道輸送を担うJR貨物だからこそできたんだ」
JR貨物の入社試験に臨んだ市川さんは、最終の役員面接で震災で物流のありがたみを痛感したこと、石油列車に感動したことを伝えた。
間もなく、市川さんにJR貨物から内定の知らせが届いた。入社後数カ月の研修を経て、大宮車両所での勤務が決まった。毎日けたたましい音を立てて車両所のシャッターが開き、酷使されくたびれた機関車たちがやってくる。オーバーホールには2カ月かかることもある。徐々にできる仕事が増えてきた。運転士などさまざまな仕事を経験してみたいが、将来的には機関車の故障診断や人間工学に基づいた運転支援など、機材の開発にも取り組んでみたいと思う。貨物鉄道の設備は次々に更新され、震災時の石油輸送で活躍した古い機材はすでにない。次に巨大災害が起こったときも、貨物鉄道が被災地への物流を担えるようインフラを支える。それが自分の役目だといえるように働きたいと、市川さんは目を輝かせていた。=おわり