それでも「諦めないうちは失敗ではない」と自分に言い聞かせ、粘り強く社員教育に取り組んだ。まず人間関係をよくしようと、私が率先して「おはようございます」「お疲れさまでした」といった挨拶を社内で徹底させた。社員同士が一緒に仕事をしたときには、必ず「ありがとう」という言葉を相手に伝えさせた。
ドアの手動開閉、自己紹介のサービスを取り入れたのは創業4年目くらいから。乗務員は抵抗したが、私が助手席に乗り込んで、できるようになるまで指導した。一方、創業3年目から業務員の採用は未経験者に限定し、経営理念に沿った人材を純粋培養で育てることにした。
コップのなかの濁り水に、スポイトで少しずつ真水を入れて、透明度を高めていくようなものだったが、社員の態度は徐々に変わっていった。半信半疑だった社員たちも、実際にお客さまから褒められたりするうちに、私の言っていることを納得したのだろう。風向きが変わり始めたのは10年目くらいからだ。
今では、おもてなしをするサービス業から一歩進めて、「お客さまの人生に触れ、安全を守る仕事である」との使命感を持って取り組んでいる。病院から自宅まで300メートルしか離れていなくても、歩いて帰れずに困っているお年寄りがいる。そうしたお客さまにも寄り添うべきなのだ。