たとえば、当社では感謝の気持ちをメッセージにした「ありがとうカード」を同僚に渡す仕組みがある。そのカードを配った数を競うキャンペーンを毎年3カ月間行っているが、トップクラスの社員は5000枚以上配る。それだけ社員の仲がよく、互いに助け合う社風になっている。
介護タクシーを導入した際、2級ヘルパーの資格を取った約20人の社員が、ほかの社員に介助の方法を教え、今では大半の社員が介助できるようになった。通常のタクシー会社は人の出入りが激しいが、当社の離職率は2%程度にとどまる。
未経験者採用で純粋培養
私は大学を中退して、父が経営していた宇都宮乗用自動車商会に入社。その後、再建のため父とともに長野タクシーに移った。当時の社内は労使紛争が絶えず、朝礼では挨拶どころか、「この馬鹿野郎」と怒号が飛び交っていた。新入社員が入ってきても、すぐにヤル気を失ってしまう。「腐ったりんごは、周りのりんごまで腐らせる」という状態だった。
頭にきて「こんな会社、潰したほうが世の中のためだ」と父に言い放ったこともあった。父も見かねたのか、「再建に10年はかかるから付き合うことはない。自分の好きなようにやってみろ」と独立を勧めてくれた。それで1975年に中央タクシーを創業したのだ。
私は、「単なる運送業ではなく、サービス業としてのタクシー会社をつくろう」と考えていた。ところが、なかなかうまくいかない。慢性的な人手不足で、経験者の中途採用に頼らざるをえず、乗務員に染み付いたタクシー業界の悪弊を取り除くことが難しかったからである。