日立・三菱重・東芝の原発3社、海外案件暗礁で苦境 最先端技術や人材の喪失懸念
日立製作所、三菱重工業、東芝の原発メーカー3社が、海外進出をめぐり苦境に立たされている。東京電力福島第1原発事故で、国内の新設が見込めなくなる中、そろって海外に活路を見いだそうとしているが、22日にベトナムが建設計画を白紙撤回するなど、有望な案件が相次ぎ暗礁に乗り上げている。海外進出の停滞は、事業のもくろみを狂わせ、技術や人材の維持に支障を生じかねない。
成長戦略にも打撃
「残念だ。(計画を)見直す時期も来るだろうから、支援は続けたい」
日本電機工業会の志賀重範会長(東芝会長)は24日の会見で、無念さをにじませつつベトナムへの輸出に引き続き努める考えを強調した。
ベトナムは、2010年に国会が中部ニントゥアン省の建設計画を承認し、第1原発2基をロシア、第2原発2基を日本が受注していた。なかでも、三菱重工が仏メーカーのアレバと開発した中型炉「アトメア1」の採用が有力視されていた。
ところが、福島第1原発事故後に新たな安全対策が必要となり、建設コストが膨らむ見通しとなったことで、14年に着工予定だった計画が遅れ始めた。ベトナム共産党内では、財政が悪化する中で巨費を投じることへの反対論が浮上。10月の党中央委員会総会で、計画を再検討する方針を決め、政府に見直しを指示していた。
日本は原発輸出を成長戦略の柱と位置付け、官民一体でベトナムでの受注を目指してきた。既に日本原子力発電が事業化調査に入り、技術者の研修も受け入れていただけに、打撃は大きい。
一方、ベトナムとともに日本の受注が有力視されるトルコでは、7月にクーデター未遂が起きるなど、政情不安が懸念されている。トルコでは、三菱重工・アレバ連合が4基を受注する見通しだが、まだ事業化調査は終わっていない。日立がビサギナス原発建設の優先交渉権を得ているリトアニアでも、10月の議会選で反原発を掲げる野党が第一党に躍進し、計画の頓挫が危惧されている。
そのうえ、11日に日本と原子力協定を結んだインドも、原発メーカーにも事故責任を負わせる原子力損害賠償法が壁となっている。
このため、東芝子会社の米ウェスチングハウスが6基の受注を内定しているのを除けば、各社とも売り込みに二の足を踏んでいるのが実情。比較的順調なのは、日立と東芝が現地の発電事業会社を買収し、それぞれ4~6基、3基の建設を推進している英国ぐらいだ。
原発メーカーなどの関連企業で構成する日本原子力産業協会によると、今年1月時点で稼働している原発は世界に434基あり、建設中が74基、計画中も101基あるなど、潜在需要は大きい。
さらなる再編圧力も
一方、各社とも主力の国内は既存原発の保守や廃炉に軸足を移しつつあり、新規受注が途絶えてもすぐに事業が行き詰まるわけではない。
もっとも、受注の間隔が空くほど、技術や人材の維持は難しくなる。そうなれば、国を挙げて輸出を推進し、手ごわいライバルに成長しつつある中国などとの競争が不利になるどころか、産業の維持すらおぼつかなくなる。
国内市場の縮小が避けられない中、3社は原発燃料事業の統合交渉を進めており、原子炉についても経済産業省が統合を模索している。炉のタイプが違うなど課題は多く、メーカー側では「短期的に結論付ける時期なのか」(電機工業会の志賀会長)と慎重だが、海外進出の停滞が長引けば再編の圧力がさらに増しそうだ。(井田通人)
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■日本が原発輸出を目指す主な国
トルコ/三菱重工業などの企業連合が4基の受注を内定
ベトナム/日本が2基受注も計画を白紙撤回
英国/日立製作所、東芝が現地の原発事業会社を買収し、建設を推進
リトアニア/日立が1基の優先交渉権獲得
インド/11日に日本と原子力協定締結、東芝子会社が6基の受注内定
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