老舗百貨店・三越伊勢丹が凋落の危機 「爆買い」頼みのツケ? 成長の青写真描けず

 
三越日本橋本店

 インバウンド(訪日外国人)による「爆買い」終了で、老舗百貨店の三越伊勢丹ホールディングス(HD)が苦境に立たされている。衣料品や宝飾品の販売も振るわず、三越千葉店、三越多摩センター店の閉店に続き、地方4店の縮小を検討。ついに屋台骨の三越日本橋本店、三越銀座店、伊勢丹新宿本店の旗艦3店でも客離れを招いている。

 「今のビジネスモデルで良いとは思っていない」

 三越伊勢丹HDの大西洋社長は8日に都内で開いた9月中間の決算会見で、マイクを使っても、聞き取りにくいほど小さな声で力なく、こう語った。

 それもそのはずで、中間決算の発表の場にもかかわらず、この日は2018年度に目指していた営業利益500億円の中期経営計画目標を2年先送りすることを明らかにした。

 要因はいくつかある。一つは爆買いの終了だ。円高や中国政府による輸入品の関税引き上げで、高額品が売れなくなり、一人当たりの客単価が大きく下がってしまった。外国人向けの売り上げは前年同期比で約2割減った。

 さらに追い打ちをかけているのが国内の中間層がモノから体験型消費にシフトし、主力の衣料品が売れなくなってしまっていることだ。大西社長は「中間層の給料が上がらず、通信費や旅行などにお金が使われている」と説明した。消費者の志向の変化の速さに翻弄されているようだ。

 すでに来年3月に三越千葉店、三越多摩センター店を閉店することを決めているが、取り巻く環境は厳しく、さらなるリストラも検討している。この日の会見では伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)と伊勢丹府中店(東京都府中市)、松山三越(松山市)、広島三越(広島市)の4店の売り場面積の縮小や他社との提携、業態転換の検討を明らかにした。

 各店舗の営業利益や債務超過、数年先のフリーキャッシュフローを同社が定めた評価基準に照らし合わせると、この4店が該当しているという。大西社長は「まだ検討段階で正式決定しておらず、閉店ありきではない」と述べ、17年秋から18年度中に結論を出す。

 これまで三越伊勢丹は08年の統合以降、リストラの対象となっていたのは三越の不採算店舗が中心で伊勢丹が閉店したのは吉祥寺店だけだった。ただ、今回は伊勢丹松戸店と府中店もリストラ対象となっている。

 一方、大西社長は会見の席で、管理ポストの削減も示唆した。統合後に管理ポストが増えており、人件費の増加が経営を大きく圧迫しているためだ。

 これまで三越伊勢丹は旧三越と旧伊勢丹で待遇格差があった。旧伊勢丹の賞与が旧三越より2倍以上高く、リストラは旧三越ばかりだった。そのため、「三越出身者の不満が高く、会社が一枚岩になれていなかった」(三越伊勢丹HD関係者)。

 ようやく今夏に賞与格差は解消されたが、管理ポストの削減で、旧三越の社員が割を食えば、新たな火種を残す可能性もある。現在の厳しい局面で、会社が一つにまとまらなければ、構造改革が遅れるリスクも抱える。

 さらに大西社長を悩ませるのが頼みの綱となる旗艦3店の売り上げの落ち込みだ。伊勢丹新宿本店の4~9月期の売上高は前年同期比5.1%減、日本橋本店が4.2%減、銀座店が8.2%減と振るわない。

 婦人服や紳士服、宝飾品の落ち込みが大きく、中間層の百貨店離れが鮮明となっている。

 この傾向は三越伊勢丹だけでなく、業界全体の問題でもある。ただ、三越伊勢丹は売上高全体で百貨店事業が占める割合が85%と高く、他社よりも厳しい環境にあるのは確かだ。

 一方、大丸と松坂屋を運営するJ.フロントリテイリングは松坂屋銀座店跡に森ビル、住友商事と共同で「GINZA SIX」を来年4月に開業する。松坂屋の看板を掛けず、高級ブランドや体験型消費のテナントを誘致する。オフィスも入居させ、建物の収益の大半は賃貸収入が占める。

 J.フロントの山本良一社長は「これまで50年間で築き上げた成功体験やビジネスモデルが通用しない局面が増えてきた」と述べており、百貨店事業にこだわらず、不動産事業に活路を見いだそうとしている。

 高島屋も新宿の「タカシマヤタイムズスクエア」でニトリにスペースを貸し出す方針を打ち出すなど、不動産賃貸事業に舵を切り始めた。

 三越伊勢丹は老舗ゆえに守るべきものも多いのか、消費者のニーズの変化への対応で2社よりも出遅れ感がある。

 三越伊勢丹傘下の三越は1673年に開業した呉服店「越後屋」を起源とし、1904年には「三越呉服店」として日本初の百貨店となった。老舗中の老舗で日本の百貨店の顔ともいえる存在だ。1886年開業の「伊勢屋丹治呉服店」を起源とする伊勢丹も歴史が古く、固定ファンは多い。

 ただ、今はインターネットが普及し、いつでもどこでも安くて良いものを手に入れられる時代に変わってしまった。消費者ニーズの変化は速く、対応が一歩遅れれば、老舗の三越伊勢丹であっても、さらに凋落(ちょうらく)の一途を辿(たど)る可能性さえある。

 大西社長は会見で「将来的には売上高を百貨店が60%、その他が40%の形にしないといけない」と述べたものの、新たなビジネスモデルの具体像を示せていない。

 三越伊勢丹は14年3月期の連結営業利益で過去最高を記録したが、爆買い頼みの側面が否めなかった。それだけに、その急速な失速はダメージが大きい。国内の消費動向の変化を踏まえた新たな成長の青写真を早急に描けるかが老舗百貨店の前途を大きく左右することになりそうだ。(黄金崎元)

■三越伊勢丹ホールディングス

 平成20年4月に三越と伊勢丹が株式を共同移転し、設立された業界最大手の百貨店グループ。三越、伊勢丹をはじめ、地方百貨店も所有する。欧米やアジアでも店舗を展開している。平成28年3月期の連結売上高は1兆2872億円。