訪日外国人の旅行消費額が4年9カ月ぶりにマイナスへ転じたのは、全客数の3割近くを占める中国人の旅行スタイルが、以前の買い物中心から“日本ならではの体験”を求める「『コト消費』に変わってきた」(田村明比古観光庁長官)ことが大きい。小売りや旅行業界では、新たな潮目をつかむ取り組みに注力している。
「昨年と比べ、中国人の団体ツアーは2~3割減った」と明かすのは阪急交通社の担当者。円高や中国当局の関税引き上げに加え、リピーターを中心に個人旅行客が増えた結果、百貨店などにバスを横付けして高級品や家電の大量購入に走る団体客は影を潜めた。一方で伸び盛りなのは、母国で味わえない体験を提供する「着地型」の旅行商品などだ。
エイチ・アイ・エスは3月に専門子会社を新設し、ネット経由で約7000の旅行商品の販売に乗り出した。富士山を眺めながら山中湖でワカサギを釣るツアーや、ゲームの人気キャラクター「スーパーマリオ」にふんして都内の名所を小型カートで巡るツアーが人気という。
グランドプリンスホテル高輪(東京都港区)は来月1日、本館の一部を旅館風に改装してオープンする。庭園でのお迎えや茶席といった日本文化を前面に打ち出すことで、洋風の既存ホテルに飽き足らない客層を取り込むのが狙いだ。
一方、“爆買い”で潤ってきた百貨店各社は方向転換を迫られている。8月中間決算で中間期として7年ぶりに営業減益に陥った高島屋は、新宿店(東京都渋谷区)に来春開設する空港型免税店の品ぞろえを消耗品中心に見直し、販売目標を下方修正。三越伊勢丹ホールディングスは日本通運などとマーケティング会社を設立、海外へのネット通販を強化すると発表した。
「日本風のメークを教えてもらえる化粧品売り場の人気は今も高い」と指摘するのは、JTB総合研究所の三ツ橋明子主任研究員。「目の肥えた旅行客を満足させる上で『買い物』と『体験』をつなげる工夫が効果的」と提言する。(山沢義徳)