なぜ人はポケモンGOやソシャゲにハマるのか 行動経済学から分析

 
銀座でポケモン探し=東京都中央区

 人はどうしてソーシャルゲームにハマるのか。そして大勢の人がどうして「ポケモンGO」にハマっているのか。広告会社大手のアサツー ディ・ケイ(東京都港区)でプランニング・ディレクターを務め、「9割の人間は行動経済学のカモである」(経済界)という著書もある橋本之克氏が、ゲーム開発者向けイベントのCEDEC2016に登壇。行動経済学という学問に沿って、それらの理由をひもといた。

 8月24日にCEDEC2016で行われた、「人がゲームにハマる心理~行動経済学とソーシャルゲーム~」というセッションで、橋本之克氏は最初に、行動経済学とは何かを紹介した。マーケティングに長く携わって来た橋本氏だが、金融の分野ではマーケティングの理論や理屈が通用しないことがあったという。

 アンケートを取り、お金を借りる際に何を基準にするかを聞かれると、金利の低さを理由に挙げる人が多い。これが実際の行動になると、店舗の近さや金融機関の知名度で選ぶという。「人間は合理的だといいながら、衝動買いもするし判断も誤る。人間は不合理なもの」。その理由を考える学問として行動経済学に興味を抱き、研究を始めた。

 セッションで橋本氏は、行動経済学の理論に沿って、人がソーシャルゲームにハマっていく理由を解説した。プレーヤーがゲームを止められなくするために、レアアイテムを用意したり、マルチプレイの要素を載せたりすることは、行動経済学でいう「サンクコスト効果」、過去にかけられた費用や労力にこだわってしまう心理を働かせるものになる。

 「保有効果」も働かせている。「だんだんゲームがうまくなってきた、自分向きのゲームかもしれないといった自信が出てきて止められない。自分で育てたキャラクターやチームを持っていたい」といった心理が、もう止めようという判断をプレーヤーにさせない。

 もうひとつ、「同調効果」もあるという。「あいつがこのゲームをやっている、こんな時間までやっている、たくさんの人がやっている」といった思いから、自分もやらなくてはと考えてしまう。こうした、ソーシャルゲームに人がハマる一連の理由を挙げた上で、橋本氏は世界中で人気の「ポケモンGO」について分析した。ダウンロード数が1億をこえ、世界各国でランキングの上位を走り続けるモンスターアプリがこれほどまでの盛況を見せた理由。ここにもソーシャルゲームと同じ「サンクコスト効果」「保有効果」「同調効果」があるという。

 「サンクコスト効果」については、「今まで使った時間、今までの自分のがんばり」を無駄にしたくない心理を挙げ、「保有効果」では、「図鑑を保有している、自分が身に着けた技術を保有している」といった具合に、ポケモンのコレクション性やトレーニングによる強化といった蓄積を挙げた。「同調効果」は、人気を受けて「周囲が始めたことや世界中で流行っていること」があると指摘。大勢がハマるソーシャルゲームと同じ理由が、「ポケモンGO」にもあるようだ。

 加えて「ポケモンGO」では、「歩けば増えていく位置情報ゲームとしての特長」が、「損失回避」という意識を動かし、大勢の人の関心を引きつける。歩いているとポケモンが見つかり、コレクションに加えられる。そのうちに、歩いて「ポケモンGO」をやらないことが損になっていると感じて、歩き続けるようになる。

 「ボール投げのモチーフ、昆虫を捕まえる行為が人の心理を深掘りする」ことも。子どもの頃に楽しんだキャッチボールや昆虫採集。その思い出を呼び起こし、のめり込ませる。これを、行動経済学でいう「可能性ヒューリスティクス」だと橋本氏は指摘する。「貯蔵した記憶から、使えそうな事例を思い浮かべて判断する」心理。「『ポケモンGO』の行動が、昆虫採集の楽しい記憶と重なる」という訳だ。

 さらに「認知的不協和」の解消も。家に引きこもっている自分にネガティブな意識を抱いていた人に、外に出ることを良いことだと感じさせる「ポケモンGO」の特性が働いた。ハマるべくしてハマる要素を持った上に、さらに多くの行動経済学的な要素も「ポケモンGO」は持っていた。だからヒットした。

 これからのゲーム作りについても、橋本氏は言及した。「行動経済学は人の心理をつく武器だ」と指摘し、「重要なのは、今の経済社会の状況下で、収奪されたくないという意識を持つターゲットに対して、どのように武器を使うか」だと訴える。

 「今の人は、抵抗するだけでなく、公平なことをしてもらえば返してあげたいと思うようになっている」。そんな人間の心理、ビジネススキーム、社会貢献までふくめて「ウィン-ウィンの構造を作ることが、今後重要になる」と話してセッションを締めくくった。