リゾート再生は「戦国時代」の様相 独自の価値をどれだけ生み出せるか

 
7月に先行オープンしたネスタリゾート神戸のホテルの正面玄関=兵庫県三木市

 不振に陥ったホテルなどのリゾート施設を取得か運営受託し、新しいコンセプトで改修して出直す「再ブランド化」の動きが西日本で活発になってきた。ホテルや旅館の再生で成長する星野リゾートは「関西強化」を打ち出し、パチンコ大手の延田エンタープライズ(大阪市)やカラオケチェーン「ジャンボカラオケ広場」で知られる東愛産業(京都市)など他業種も相次ぎ参入。リゾート再生は「戦国時代」の様相をみせ始めている。(藤原直樹)

 ロテルド比叡の客単価倍増

 京都府と滋賀県にまたがる比叡山の山頂近く、琵琶湖も一望できるリゾートホテル「ロテルド比叡」(京都市左京区)。昨年7月から星野リゾートが運営している。

 もともとは京阪ホールディングスの運営だったが、稼働率が上がらず苦戦していたため、星野リゾートへの運営委託を決めた。土地と建物は引き続き京阪が所有している。

 星野リゾートは経営不振に陥ったホテルや旅館、リゾート施設を取得か運営委託を受けて再生することで成長してきた。斬新なコンセプトを打ち出すとともに、徹底的な合理化を進めることで成果をあげている。

 ロテルド比叡でもすぐに改革に着手した。コンセプトを従来の「伝統的なフランス」から「湖にたたずむオーベルジュ(宿泊のできる飲食店)」に変更。レストランの料理も王道のフランス料理からアユやホンモロコ、ふなずしなど琵琶湖ならではの特産品を大胆に取り入れた料理に変えた。

 レストランのみの利用はできないようにし、「滞在する楽しみ」を加えた。チェックインから夕食までの間にワインや茶のセミナーを開催するほか、早朝には世界文化遺産・比叡山延暦寺で座禅などの「お勤め体験」を盛り込んだ。延暦寺の朝のお勤めは周辺の宿坊に泊まらない限り受けられない特別なもので、特に宿泊者からの人気が高いという。

 これにより、客1人当たりの1泊平均単価はこれまでの約1万5千円から3万円と倍増させた。総支配人の唐沢武彦さんは「京都観光のついでに立ち寄るのではなく、ロテルド比叡自体を目的地にしてもらう戦略」と説明する。

 幹部数人を除きそのまま残った従業員の働き方も大きく変え、それぞれがフロント、清掃、料理の準備など全ての業務に関われるようにした。平日と週末で稼働率が大きく変わるリゾートホテルに則した人員配置の合理化だ。

 運営を委託した京阪の関係者は「京阪は駅前など沿線のホテルは得意だが、リゾートホテルには専門のノウハウがある。自分たちではできないことを次々と実現する」と舌を巻く。

 星野リゾートは関西ではまだロテルド比叡と京都・嵐山の高級旅館「星のや京都」の2施設しかないが、星野佳路社長は「関西はこれから強化する。特にまだ進出できていない大阪は物件があればすぐにでも進出したい」と意欲を示している。

 グリーンピア跡地に巨額投資

 一方、リゾート再生では新規参入の動きも活発だ。パチンコ大手の延田エンタープライズは昨年12月に閉鎖された大型リゾート施設「グリーンピア三木」(兵庫県三木市)の跡地を兵庫県から約11億円で取得。250億円という巨額投資で「ネスタリゾート神戸」として再生を進めており、今年7月には一部を先行オープンさせた。

 甲子園球場60個分に当たる約230万平方メートルの広大な敷地に、数棟のホテルに加え、バーベキュー施設や大型プール、テニスコート、フットサルコート、温浴施設などを整備する計画。先行部分では中核ホテルとプール、バーベキュー施設などがオープンした。

 ホテルは全109室で、自然に囲まれたグリーンピア三木の魅力を引き継ぎながら「和」の要素を取り入れている。プールには大きなバケツから水が降り注ぐ関西最大級のアトラクション「水の要塞」やスライダーを設置した。

 バーベキュー施設は快適な空間でアウトドア気分を満喫できる「グランピング」の要素を取り入れた。グラマラス(魅力的な)とキャンピングを組み合わせた造語で、エアコンやシャワールームなども備えたテントを用意する。

 今後は全室に温泉を完備する高級ホテルのほか、イルミネーション設備や滑車でワイヤを滑り降りる設備「ジップライン」、温浴施設「延羽の湯」などが次々に開業し、全面オープンは平成30年を予定する。

 延田エンタープライズの延田久弐生社長は「先行部分はまだ規模は小さいが全面オープンで大きく羽ばたく。東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンに匹敵する施設にしたい」と意気込んでいる。

 カラオケ大手低価格で存在感

 若者を中心に人気のカラオケチェーン「ジャンボカラオケ広場」を展開する東愛産業は平成15年に関連会社「湯快リゾート」を設立し、温泉旅館を中心にしたリゾート産業に参入した。こちらは1泊2食付で1人7500円(税別)からという徹底した低価格戦略で成功している。

 湯快リゾートは廃業した既存物件を安く取得し、必要最小限の改修でリニューアルさせる。初期投資を抑えるだけでなく、温泉旅館では当たり前だった仲居による部屋への案内を省き、料理もバイキング形式にしてコストを下げている。

 一方で、大阪や神戸などの都市部からは各旅館に無料の送迎バスを運行。利用者目線に立った旅館再生として注目を集める。現在は南紀白浜温泉(和歌山県)や三朝温泉(鳥取県)など西日本を中心に25施設を運営している。

 リゾートの再生に詳しい石崎祥之・立命館大教授(観光学)は「リゾート再生は注目を集めるが、成功しているところは『明確なコンセプト』や『低価格』など、しっかりとした特徴を打ち出せている」と指摘。そのうえで、「ネスタリゾート神戸が巨額投資に見合う成果が得られるかは、その施設にしかない価値を生み出せるかにかかっている」と話している。