ソフトバンク戦略見直し「ポスト孫」白紙 カリスマ経営者の後任どうなる

 
ソフトバンクグループ株主総会で副社長退任のあいさつをするニケシュ・アローラ氏=22日、東京都千代田区

 22日の株主総会で退任したソフトバンクグループのニケシュ・アローラ副社長は、出身国のインドを中心に、アジアなどでのインターネット企業への投資で成果を挙げていた。年内に設立する予定の海外事業統括会社のトップに就任する予定で、同社にとって痛手だ。海外での本格展開により成長の新しい段階に入るとした「ソフトバンク2.0」という戦略も、一部で見直しを迫られそうだ。また、数年後には「カリスマ経営者」である孫正義社長の後継者問題も浮上しかねない。

 アローラ氏は2014年9月にソフトバンクに入社。インドの電子商取引大手スナップディールや配車アプリで急成長するグラブ(シンガポール)などへの投資を主導。株の売却では電子商取引大手アリババ集団(中国)のほか、21日にはスマートフォン向けゲームのスーパーセル(フィンランド)を約7700億円で売却し、資金調達で大きな役割を果たした。市場ではアローラ氏退任に関して「投資事業への影響を注視する必要がある」(アナリスト)との声が上がっている。その穴は1997年から取締役を務めるロナルド・フィッシャー氏らがカバーするが、アローラ氏独自の人脈など引き継げない部分もあるとみられる。

 ソフトバンクにとって、投資事業の存在は大きい。孫社長は総会でも「当社は事業と投資、2つのビジネスモデルを運営しており、両方を足して世界一になりたい」と改めて強調。3月末までの実績は、累計投資額3878億円に対し、リターンは約25倍の9兆6895億円に達するという。

 もっとも、この企業投資が、電撃退任の引き金にもなったようだ。アローラ氏は総会冒頭の挨拶で、「孫氏は若い経営者に出会って若返り、社長を続ける情熱、エネルギーを取り戻したようだ」と語った。また、孫社長は「(アローラ氏から)『投資しても現金化しないと意味がない』と言われるが、私は売るのが苦手」と、現実的なアローラ氏と投資の考えで隔たりがあったことを示唆した。

 孫社長は今後、人工知能(AI)や「IoT(インターネット・オブ・シングス)」、ロボットでIT業界に大きな変化が生まれると強調した。足元では国内外の株式売却で約1兆9000億円を資金化。3月末時点で約12兆円の有利子負債を抱えており、投資機会を逃さないためにも課題となっている財務強化を進めたい考えのようだ。

 一方、カリスマ経営者の後任選びは難しい。アローラ氏の存在が安心感となっていた「ポスト孫氏」は白紙に戻った。

 孫社長は22日、過去の成長を「テクノロジーの進化を少しだけ早く理解し、恐れずに突入していくことで出世魚のように変わってきた」と振り返った。そうした大胆で迅速な意思決定ができる経営者は限られており、数年後には難問を抱えそうだ。(高橋寛次)