恐るべしグーグル!“眼球スマホ”特許 ネット直結「サイボーグ化」レンズ計画

 

【エンタメよもやま話】

 さて、今週のエンターテインメントは久々となるIT(情報技術)関連の話題です。

 既にお忘れの方も多いと思いますが、あの米グーグルが2012年、身に付ける「ウエアラブル端末」の先駆けと大いに話題を呼んだ眼鏡型の端末「グーグルグラス」というものを発表しました。

 右目の部分に仕込んだディスプレーがネットの画面になっており、現実世界とネットの世界を同時体験できるという夢のIT機器です。

 行きたい場所を声に出すと、眼前のディスプレーに自分が今居る場所から目的地までの地図(グーグルマップ)が一瞬で表示されたり、音声操作で自分が目にしている風景を動画で録画したり、電子メールの送受信ができたりします。

 翌13年、とりあえず米国でテスト版の製品を1500ドル(約16万5000円)を販売。これを受けてか、ライバルの米アップルは14年秋、腕時計型の端末「Apple Watch(アップルウオッチ)」を15年春に発売すると発表。その言葉通り15年の4月末から全世界にお目見えし「ウエアラブル端末」市場の盛り上がりが期待されました。

 恐るべしグーグル! グーグルグラスが黒歴史に…

 ところが本体価格が高額なうえ専用のアプリもなく、映画館での隠し撮りや盗撮に悪用される可能性が取り沙汰され、着用禁止を打ち出す映画館や飲食店などが続出。結局、個人のプライバシーを侵害する機器との悪印象が広まったほか、深刻な依存症に陥った男性も登場。ネットオークション(イーベイ)では半額以下で投げ売りされる事態に…。

 そこでグーグルは仕方なく、昨年1月、このグーグルグラス(通称=グラス・エクスプローラー・プログラム)の発売を中止すると発表し、事実上の撤退を表明したのでした。消費者からの予想以上の拒否反応を受けた賢明な措置といえるでしょう。

 だがしかし。グーグルは諦(あきら)めていなかったのです。米国では着用者が「Glass(グーグルグラスのグラスの意味)」と「Asshole(アスホール=けつの穴=ドアホの意味)」とを組み合わせた造語「Glassholes (グラスホールズ=眼鏡ドアホ)」と嘲笑されるなど、世間から散々アホ扱いされたとあって、このまま終わるわけにはいきません。リベンジです。

 では何を作ろうとしているか?。普通の発想なら「眼鏡がだめならコンタクトレンズだろう」と考え勝ちですが、違います。何と、目玉の中に入れる「電子レンズ」を商品化しようとしているのです!。というわけで今回はこのグーグルのブッ飛び過ぎるプロジェクトについてご紹介いたします。

 米経済誌フォーブスや英紙デーリー・メール(いずれも電子版)といった欧米主要メディアや、IT系ニュースサイトなどが4月29日に一斉に報じているのですが、グーグルが米特許商標庁(USPTO)に対し、眼球に電子レンズとみられる機器を注入する方法についての特許を出願していたことが分かったのです。特許の出願は2014年10月で、4月28日付でUSPTOがその内容を公開したため、明らかになったのです。

 公開されたグーグルの出願書類には、電子レンズのほか、データの記憶装置やバッテリー、無線通信機、センサーなど多くの極小部品が列挙されており、出願内容を分析した前述の複数の欧米メディアは、特別に開発した液体を眼球内の水晶体(いわゆる目のレンズ)を包み込んでいる水晶体嚢(のう)に注入し、続けてそこにバッテリーや通信機といった極小機器を配置。この液体が固まった後、水晶体嚢とこうした極小機器をつなぎ、最後に水晶体を取り除くのではないかと推測しています。

 これで眼球内にハイテクの電子レンズを埋め込んだ状態になりますが、複数の欧米メディアはこれを“サイボーグ・レンズ”といった言葉で表現しています。

 ご存じのように、何かを見る場合、目のレンズである水晶体が厚さを変えることによってピントが合い、遠くのものでも近くのものでもはっきり見えるわけですが、グーグルのこの電子レンズは何と、眼球の動きによって電力を起こし、それを動力にして水晶体の厚さを変えるというのです。

 出願書類に書かれたイラストを見ると、電子レンズを通した光が、眼球の一番内側にある網膜(光やモノの形、色といった視覚情報を脳に伝えるため、それらを電気信号に変える場所)にどのように届くかをシミュレーションしていることが分かります。

 つまり、この電子レンズが実用化されれば、ネットの世界と現実世界を融合すると言われたグーグルグラスどころではなく、この世の中からまず眼鏡がなくなり、近眼も遠視も乱視も、水晶体が濁ってしまう白内障も無くなってしまうというわけです。

 特許の出願時期から考えると、グーグルグラスとほぼ平行して研究していたようですが、グーグルグラスの嫌われぶりがはっきりしたため、こちらをメーンにしたようです。恐るべしグーグル!。

 実際、5月4日付の米CNNマネー(電子版)も、老眼を治すためにこの電子レンズが(多くの人々に)使用されるほか、近視、遠視、乱視といった一般的な目の問題を解決する可能性があるといったグーグル側の発言を伝えています。水晶体は加齢とともに硬くなるため、自分が見るものの焦点を調整することが難しくなりますが、この電子レンズだとそういった問題が一気に解決できるわけです。

 さらにこの電子レンズ、前述したように無線通信の機能も備えており、パソコンやスマートフォン(高機能携帯電話)ともつながるといいます。グーグル側では将来、この電子レンズからさまざまな生体データなどをネットのサーバーに送信する考えで、送信データから個人を識別できないようにする仕組みを作るなど、ハッカー対策やプライバシーの保護にも万全を期す考えです。

 いやはや、本当に凄い技術ですよね。まだ特許出願段階なので実用化はかなり先のような気もしますが、ただひとつ言えるのは、そう遠くない将来、こうした技術が間違いなく製品化されるということです。何と言っても手掛けているのはグーグルですからね。

 しかし、驚くのはまだ早いのです。グーグルは昨年、欧州製薬最大手、ノバルティス(スイス)傘下の企業、アルコンに対し、目を通じてさまざまな生体情報を無線でサーバーなどに送ることができるという現在開発中のコンタクトレンズ「スマートレンズ」の技術ライセンスを供与。

 ノバルティス側はこれを受け、グーグルのスマートレンズの技術を駆使し、糖尿病患者の涙から血糖値を測定し、そのデータを逐次、サーバーに飛ばして記録し、患者の健康に役立てようという研究を進めているのです。将来的には血糖値以外の生体情報をも無線でサーバーに送り、パソコンで管理・分析することを目指すといいます。

 それだけではありません。このスマートレンズ、視覚障害者の人々の生活を大きく変える可能性も秘めているのです。

 どういうことかといいますと、超小型の内蔵カメラを設置したスマートレンズを視覚障害者の人が使うとします。彼らが交差点を渡っているとき、不意に人や車が近づいてくると、内蔵カメラがとらえた映像データは信号に変換され、当人のスマホに無線で飛び、スマホから警告音を出したりすることもできるというのです…。

 技術ライセンス供与の件についてノバルティスのジョセフ・ヒメネス最高経営責任者(CEO)は「グーグルとともに仕事をし、互いの先進的な技術を融合させるとともに、われわれの医学に関する広範囲の知識を、いまだ対処できていない(病気といった)医学的ニーズに合致させることを楽しみにしている」とコメント。

 またグーグルの共同創業者、セルゲイ・ブリン氏(42)は「われわれの夢は、最新の技術を駆使した電子機器の小型化によって数百万人の人々の生活の質をあげることにある」と述べました。

 記者がロサンゼルス支局長を務めていた約10年前、シリコンバレー(サンフランシスコの湾岸地域南部)もよく取材しましたが、その頃、既に多くのIT業界人が「ITはこれから医学の分野と深い関わりを持つようになる」と話していたことを思い出しました。

 当時「そのうち人間の脳みそがネットと直接つながったりして…」などと軽口を叩いていたのですが、この調子だと本当にそんな時代がきて、眼球だけでなく、人体のさまざまな部分をネット技術で補完する“サイボーグ化”が珍しくなくなるのかもしれません。(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。