「ガリガリ君」謝罪動画 「泣けてくる」「優秀な日本」と海外からも称賛の声
4月から値上げされた商品が増え、家計は痛手を負うばかりだが、ネットで経営トップ自ら値上げをわびて、好感度をあげた会社がある。人気アイス「ガリガリ君」のメーカー、赤城乳業だ。ガリガリ君は原材料価格の高騰で、25年ぶりに希望小売価格を60円から70円(税別)に値上げ。これについて、井上秀樹会長を筆頭に同社幹部らがそろって頭を下げる「謝罪動画」を自社ホームページにアップしたところ、ユーチューブの閲覧数は1週間ほどで120万回数を超える反響を呼んだ。話題はSNSなどでも拡散。評判は日本だけでなく、海外にも広がり「優秀な日本人」とベタほめコメントも相次いでいる。
「謝罪」ユーチューブで120万回超閲覧
ガリガリ君の謝罪動画は1日にアップ。4月末まで見られる予定だ。
動画は60秒で構成。前列中央に立つのが井上秀樹会長(72)だ。その向かって右側に秀樹氏の長男で、3代目社長に4月1日に付いた創太氏(42)。約100人の従業員とともに、スーツ姿で厳しい表情でだまったまま正面を向き、ラストに全員で頭を下げる。
たったこれだけのシンプルな映像にもかかわらず、ユーチューブでの閲覧数は、4月8日夜までに120万回超えるヒットとなっている。
まるで企業の苦悩、昭和の伝説フォークシンガーがBGM
映像演出の胆となるBGMは、1960年末から京都を中心に関西でも活動した伝説のフォークシンガー、高田渡氏(1949~2005年)が歌った「値上げ」だ。
歌が世に出たのは高度成長期にあった大阪万博の翌年の昭和46(1971)年。金・ドルを兌換停止したニクソン・ショックがあり、その後のオイルショックで急激な物価高に向かう節目の年でもあった。
♪値上げはぜんぜん考えぬ
♪年内値上げは考えぬ
♪すぐに値上げは認めない
♪値上げするかどうかは検討中
♪すぐに値上げはしたくない
まるで経営者がインタビューで、のらりくらりと質問をかわそうとする言葉を並べたような歌詞。スローなリズムにあわせて、値上げに踏み切るまでの、ためらいがにじみ出て、しんみりとした気分にさせる…
知覚過敏でも食べる、日本の精神に驚き…
ガリガリ君が昭和56(1981)年に発売された当時の価格は50円。平成3(1991)年に10円値上げし60円になった。このときは新聞広告で「ガリガリ君」のキャラクターが謝罪したが、今回の値上げはトップらが登場して頭を下げた。
ホームページにアップされた動画は、基本的には値上げへの「謝罪」CMなのだが、実態は、赤城乳業の企業イメージを高めるPRになっている。
「情に弱い日本人の心情をついている」
「100円なっても買い続ける」
「黙って値上げする企業が多いのがおかしいと感じさせてくれた」
「知覚過敏でも食べる」
ユーチューブでは日本語でこんなコメントが添えられた。英語でも「10円の値上げのために消費者の心情を気にかける日本の文化が好きだ」「私は誠実で正直そうなこの会社から購入する」「日本の精神は驚きだ」と絶賛の書き込みがあった。中国版ツイッターでも謝罪動画が取り上げられ、「企業の良心」「この感覚はすばらしい」「泣けてくる」「この国はなんだ」「優秀な日本人」など驚きと称讃の声が並んだ。
もちろん、ネットには、「お金をかけてCMを作るくらいなら値下げをしてほしい」といった厳しい要求もあるが、肯定的なつぶやきが目立ち、赤城乳業によると、「ありがたい声の方が多くいただいている」(マーケティング部)という。
実はしたたか者?ガリガリ君
謝罪動画が反響を呼んだのは、「ガリガリ君」が4月からの値上げ商品の代表格に位置付けられたことも背景にある。
25年ぶりの値上げというニュースが衝撃的に広く知れ渡ったところで、経営トップが顔出しで、ネットで謝る異例の自虐CMを展開。値上げというネガティブニュースをうまく利用して、ブランド向上に役立てたわけだ。そこには、世間からの自社に対する目線を熟知した戦略がのぞく。
赤城乳業について、流通経済研究所の鈴木雄高主任研究員は「もともと遊び心のあるユニークな企業として認知されており、ガリガリ君には強いブランドがある。『何かやってくれる』と常に期待を持たれている企業で、今回は10円の値上げで、そこまで大げさにやるのかという驚きを与えた」と分析する。
テレビでも4月1日から2日間の日程で、コマーシャル枠で放送。鈴木氏は「エイプリールフールで、日本がジョークに浮かれているときに、値上げをわびて、愚直で真面目な姿勢を示す逆張りで、好感度をあげたのではないか」と話す。
一般的には、こっそりとやりたい値上げを、どうどうやってみせたガリガリ君。顔は無邪気な小学生のキャラクターだが、実はしたたかものか?
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