「業績を見て、従業員の3~5%に辞めてもらっている」という厳しさ…アジアからの投資の呼び水になるか
シャープ・鴻海調印シャープが国内電機大手で初めて海外企業の傘下に入る。外資の日本企業に対するM&A(企業の合併・買収)はこれまで、大型案件では仏ルノーの日産自動車への資本参加のように“買い手”は主に欧米企業だった。シャープ買収を呼び水に、成長著しいアジア企業が日本の大手企業のブランドや技術を狙ってM&Aを加速させる可能性がある。(高橋寛次、橋本亮)
M&A助言のレコフによると、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業のシャープ買収金額は3888億円で、アジア企業による日本企業へのM&Aでは過去最大。1985(昭和60)年以降の海外企業の日本企業に対するM&Aで9位に入った。
日本企業に対するM&Aは、件数ではすでにアジア企業が台頭しているが、金額の合計は大きくない。
昨年は、北米の企業が88件に対しアジア企業は77件で、総額になると北米の4015億円に対しアジアは2368億円と半分程度だった。財務省の集計では、海外企業がM&Aなどでの日本国内への投資額を示す対内直接投資残高は2014(平成26)年末で約23兆円。このうち、アジア企業からの投資は約15%にとどまっている。
しかし、今年はすでに鴻海のシャープ買収や中国・美的集団による東芝の白物家電事業買収があり、レコフによるとアジア企業による日本企業へのM&Aの総額は3月末までで5309億円と急拡大している。
早大ビジネススクールの長内厚准教授(経営戦略)は「日本企業の技術への過信と、アジア企業への偏見が、投資を呼び込む際の大きな壁になってきた」と指摘。「鴻海のシャープ支援が成功すれば、アジア企業が日本の中小企業にとどまらず、大手企業への出資や買収に乗り出すケースが増えるだろう」と予測する。
政府は20年の対内直接投資残高を35兆円に12年末から倍増させる目標を掲げる。技術流出などの懸念は根強いものの、少子化で国内市場が縮小する中、アジアを含めた海外企業の投資による雇用の維持や地域の活性化が欠かせないためだ。
ただ、鴻海の経営手法や企業文化を「新しい血」として取り入れて、シャープは再建できるか。
鴻海の郭台銘会長は2日の記者会見で、「文化が違うからこそうまくいく」と強調した。しかし、「業績を見て、従業員の3~5%に辞めてもらっている」(郭会長)という鴻海の厳しさは、従来のシャープにはない。
関連記事