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慰安婦問題で「吉田証言」に踊った人たち 記事取り消しの意味

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慰安婦問題で「吉田証言」に踊った人たち 記事取り消しの意味

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【阿比留瑠比の極言御免】

 朝日新聞が5、6両日にわたって朝刊に掲載した同紙の慰安婦報道の検証記事を興味深く読んだ。朝日の検証は中途半端で言い訳じみた内容ではあったが、韓国・済州島で女性を強制連行したと証言した吉田清治氏に関する記事(少なくとも16本)を取り消したことには一定の意味がある。

 もちろん、吉田氏を「職業的詐話師」と呼ぶ現代史家の秦郁彦氏がすでに平成4年3月に済州島で現地調査を行い、虚偽性を指摘してきた話であり、遅きに失した点は否めない。

 読売新聞の6日付社説「『吉田証言』ようやく取り消し」は、次のように朝日の姿勢を批判した。

 「疑問が指摘されながら、20年以上にわたって、放置してきた朝日新聞の責任は極めて重い」

 とはいえ、間違いを改めないよりははるかにマシである。秦氏は6日付朝日に寄稿し、こう書いている。

 「前回の検証(97年3月31日)では吉田証言に関して『真偽は確認できない』と抑え気味だったが、今回は『虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした』と改めた。謝罪の言がないことに不満の人もいようが、画期的だと評価する人も多かろう」

 吉田氏のことを「腹がすわっている」などと持ち上げ、国内外に広めた朝日がその証言を否定したのだから、今後は吉田証言に依拠して慰安婦強制連行説を唱える論者はそうそう出てこないだろう。

 それにしても慰安婦問題を考えるとき、吉田証言に食いつき、これを利用して日本たたきを展開した識者の多さに気が遠くなる。

 吉田氏は、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野談話作成時には政府のヒアリング(聞き取り)対象となったし、国連人権委員会(当時)に提出され、慰安婦を「性奴隷」と認定した8年の「クマラスワミ報告」でも引用されている。

 日本に批判的なオーストラリア人ジャーナリスト、ジョージ・ヒックスの事実誤認の多い著書「慰安婦」でも、参考文献として吉田氏の本が記載されている。4年7月の日本弁護士連合会人権部会報告でも吉田氏の著書が引用された。

 韓国政府も、同年7月の「日帝下軍隊慰安婦実態調査中間報告書」で吉田氏の著書を強制連行の証拠として採用しているのである。

 社民党の福島瑞穂前党首らとともに、韓国で対日賠償訴訟の原告となる元慰安婦を募集し、代理人を務めた高木健一弁護士に至ってはこれとは別の裁判で吉田氏を2回、証人として招いて証言させた。

 民主党の仙谷由人元官房長官の大学時代からの友人でもある高木氏は著書「従軍慰安婦と戦後補償」(4年7月刊)で、吉田氏の法廷証言を26ページにわたって紹介している。その中で高木氏は、こう吉田証言を称賛している。

 「その証言は歴史的にも非常に大きな意義がある」

 「戦時における日本の社会全体がいかに正義と不正義の分別さえ全くできなくなっていたか、その異常な状況を証明して余りある」

 朝日をはじめ、当時の言論空間がいかに事実と虚構の分別さえ全くできなくなっていたかが分かる。

 当の吉田氏は8年の週刊新潮(5月2・9日合併号)のインタビューでこう開き直っていた。

 「事実を隠し、自分の主張を混ぜて書くなんていうのは、新聞だってやっている」

 吉田氏は自身の創作話に裏付けもとらずに飛びつき、論調が合うからと恣意(しい)的に垂れ流した新聞報道などのあり方を、実は冷めた目で見ていたのかもしれない。(政治部編集委員) 

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