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いろいろな視点を最小化した脚本に 映画「さまよう刃」 イ・ジョンホ監督インタビュー

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いろいろな視点を最小化した脚本に 映画「さまよう刃」 イ・ジョンホ監督インタビュー

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「原作が2008年に韓国で発売され、何度も読みました。最初の3~4回は号泣しながら、映画化のオファーを受けた後も原作を5回読み直しました」と語るイ・ジョンホ監督(ポイントセット提供)  もし最愛の娘が乱暴され、挙げ句の果てに殺害されたとしても、遺族はただ悲痛な気持ちを押し殺して生きるしかないのか-。韓国のイ・ジョンホ(39)が監督と脚本を担った復讐劇「さまよう刃」は、加害者にばかり手厚く、遺族側のケアは置き去りにされがちな日本の少年法への疑問をベースとしている。原作は人気作家、東野圭吾(56)の同名ベストセラー。東野の大ファンを公言するイ監督は、原作に登場する遺族のやり場のない怒りに思いをはせ、「本の中で起きた悲劇は現在の韓国でも起きています。被害者側はもっと励まされてもいいはず。もちろん復讐は決してよくありませんが、『間違った社会システムをどうにかしたい』という原作のメッセージを映画で印象的に伝えたいと考えました」と映画化のオファーに即座に応じた。

 妻を病で失った後、中学生の一人娘、スジン(イ・スビン)と静かな日々を送っていたサンヒョン(チョン・ジェヨン)。しかしある日、スジンは少年たちに集団レイプされ、殺害されてしまう。後日、犯人の情報を記した匿名のメールが届き、サンヒョンが記されていた住所を訪ねて忍び込むと、少年が犯行時の動画を見て笑っていた。衝動的に少年を殺害したサンヒョンは、スジン殺害に関わった少年たちへの復讐に駆り立てられていく。一方、刑事のオッグァン(イ・ソンミン)は少年の殺害状況から犯人はサンヒョンとの見方を強める。

 人物の言動は主観的に

 イ監督は、父親と刑事のモノローグが大部分を占める原作とは一線を画し、新たな角度から作品を描こうと、2人の会話をふんだんに取り入れる手法をとった。登場人物たちの言動も、とりわけ主観的に、情感たっぷりに描いた。「実際、殺人事件の当事者になれば、よく考えてから行動するような精神状態にはなく、本能に突き動かされるまま行動に走ってしまうだろうと考えたからです」。そこは作中の出来事を客観的に描いた寺尾聰主演の邦画版「さまよう刃」(2009年、益子昌一監督)と意識的に差別化を図った点でもある。

 脚本の執筆で苦労したのは、様々に入り乱れる登場人物たちの視点をどう交通整理して、一つの場面へと視覚化していくかだった。「原作では刑事が日本の少年法の難点をせりふで説明しています。でも、映像でそれをそのまま表現するわけにはいきません。脚本の初稿では一つの場面に父親、刑事、加害者といったいろいろな視点を登場させました。最終的には彼らの視点を最小化した形で盛り込み、脚本としました」

 初めて起用した名優、ジェヨンの印象に関しては「過去の作品を見る限り、強面の役もコミカルな役もできる器用な役者といったものでした。実際に会うと想像以上にエネルギーが溢れている俳優なので、第一印象は怖かったです。演技への集中力が素晴らしかったですね。その一方で、とても親切で、面白い話で現場の雰囲気作りも進んで買って出る優しい人でもありました」。いい意味で次々と裏切られたようだ。9月6日から東京・角川シネマ新宿ほかで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Lee Jong-ho 1975年7月16日、韓国生まれ。2010年、盗作と記憶というテーマで描いた「ベストセラー」でデビュー。4年ぶりの新作「さまよう刃」は構想から7年の歳月を経て完成させた。シナリオ修正だけで50稿に及んだ。

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