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家族がどれほど大切か描きたかった 映画「マルティニークからの祈り」 パン・ウンジン監督インタビュー
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「さすがチョン・ドヨンさん。深みのある演技をみせてくれました」と語るパン・ウンジン監督=2014年7月31日、東京都中央区(高橋天地撮影) 映画よりも、もっと映画的なことが現実に起きるのだと、きっと見る者は認識を改めるに違いない。韓国のパン・ウンジン監督(49)の新作「マルティニークからの祈り」は、身に覚えのない罪で異国の刑務所に投獄された主婦が、韓国で暮らす家族のもとへ戻るまでの765日を描いたドラマで、2004年に起きた実話を忠実に再現した作品だ。事件は06年に韓国で放送されたドキュメンタリー番組で紹介され、ネットユーザーを中心に大きな反響を呼んだ。
収監先は韓国から1万2400キロも離れた、はるか地球の裏側にあるマルティニーク島。カリブ海に浮かぶフランス領のリゾート地だという。プロモーションで来日したパン監督は「言葉すら通じない国で主婦が経験した地獄の日々は、世界のどこかで今でも繰り返されているかもしれません。私はこの映画を通して、海外で不利益を被った同胞への対応によき変化をもたらすことができれば-との願いを込めました」と語り、身近に起こりうる事件であることを強調した。
ジョンヨン(チョン・ドヨン)は平凡な主婦。ちょっと頼りないが優しい夫、ジョンベ(コ・ス)、4歳の一人娘(カン・ジウ)と3人で、裕福ではないものの幸せな毎日を送っていた。だが、ある日、ジョンベの友達が多額の負債を抱えたまま自殺してしまう。保証人となっていたジョンベは家賃が払えなくなり、家族もろとも自宅を追い出されてしまう。路頭に迷っていたジョンベに知人のムンド(チェ・ミンチョル)が助け舟を出した。「金の原石をフランスにこっそり持ち込むだけで大金が稼げる。当局にばれても罰金刑で済む。女にしかできない仕事だ」。不安を抱きながらももうけ話に乗ったジョンヨンは韓国を発ち、フランス・オルリ国際空港へ降り立つ。
英語タイトル「Way Back Home」の方が、パン監督が伝えたかった思いをより的確に表しているかもしれない。パン監督は愛する家族のもとへ帰れない状態の残酷さを指摘したうえで、「当たり前のようにいつも一緒に過ごしている家族がどれほど大切なものかを描きたかった」と力を込めた。本作のモデルとなった主婦は試写会で「私の思いをそのまま描いてくれた」とパン監督に謝意を示したそうだ。
救済を訴える主婦とその家族の叫びを“黙殺”し続けた駐仏韓国大使館のお粗末な対応もしっかりと盛り込まれている。「国家公務員がウソをつくと思うか?」「公務員に雑用をやらせるつもりか?」「通訳も弁護士もご自分で雇ってください」。パン監督は海外で不利益を被っても、韓国人は自分で問題を解決しなければならない現実を皮肉たっぷりに浮き彫りにした。かつてテレビ放映を妨害しようとした大使館側はともかく、フランス当局は映画化を快く思っていなかったのでは? パン監督に水を向けると、「何も圧力はありませんでした。実際に麻薬犯を検挙したオルリ空港関係者にも取材できましたしね」。8月29日から全国順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)
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