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アマゾン 赤字覚悟のスマホ投入

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アマゾン 赤字覚悟のスマホ投入

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 米インターネット通販大手アマゾン・コムが顧客基盤拡大を狙った事業開拓を加速させている。7月24日には先端機能を満載したアマゾン初のスマートフォン(高機能携帯電話)「ファイアフォン」を発売。音楽や電子書籍でも相次いで新サービスを打ち出している。ただし米メディアではファイアフォンの基本的性能への不満も指摘されており、先行する米アップルなどの牙城を崩すことは容易ではない。アマゾンはスマホ事業で赤字覚悟の長期戦を想定しているようだが、投資家を失望させるリスクも抱えている。

 狙いは物販囲い込み

 「顧客により良い体験をしてもらうために全力を尽くす」。アマゾンの最高経営責任者(CEO)、ジェフ・ベゾス氏(50)は7月24日の2014年4~6月期決算発表に際し、今後の事業開拓に意欲をみせた。

 アマゾンが手がける新規事業の代表格がこの日から発送が始まったファイアフォンだ。内蔵カメラで商品の外観を撮影すればアマゾンの物販サイトへのリンクが表示されるといった先端機能が特徴で、購入者には物販サイトでの2日以内に届く商品配送料が無料になるなどするプライム会員の年会費99ドル(約1万円)を1年間無料にするといった特典もある。米国で拡大するスマホ経由の物販の囲い込みが狙いだ。

 またファイアフォンはハード面でも先端性をうたっている。4台のカメラで画面と利用者の顔の位置を測定し、利用者が画面をのぞき込む角度に応じて3D(3次元)画面を変化させることで、より立体的な映像表現を実現した。さらに本体を傾けるだけで画面がスクロールするオートスクロール機能も備えるなど、操作性も向上させた。

 性能に辛口評価も

 アマゾンは6月以降、プライム会員を対象にした音楽のストリーミング(逐次再生)配信サービスや、月約10ドルの会費で60万冊以上の電子書籍が読み放題になるサービスも開始。相次ぐ新規事業は「推定約2000万人のプライム会員の裾野を広げて収益基盤を拡大する戦略」(米メディア)とみられている。

 しかしアマゾンは物販では圧倒的な存在感があっても、その他の市場では後発にすぎず、新規事業の成功が約束されているわけではない。

 ファイアフォンについては先端技術満載の商品性に対して「物販促進だけが目的ではなく、アマゾンは本気でスマートフォン市場を獲りにきている」(ITジャーナリスト)との声もあるが、「電池の持ちが悪い」「米アップルや韓国サムスン電子のスマホに比べてアプリが少ない」といった辛口の評価も目立つ。音楽配信や電子書籍の読み放題サービスでも、先行するライバル企業に比べてコンテンツが少ないといった弱さが指摘される。

 株価大きく下落

 また、アマゾンが11年に投入したタブレット端末「キンドルファイア」が市場で、2%程度のシェアしか得られていないことも先行きの厳しさを物語る。4~6月期決算は売上高は前年同期比23%増の193億4000万ドル(約1兆9700億円)と好調だったが、新規事業への投資がかさんだ結果、3四半期ぶりの最終赤字に転落した。

 ただし1995年にアマゾンを立ち上げたベゾスCEOは、信念のひとつに我慢強さを挙げる粘りの経営手法でも知られる。これまでにも巨額の投資で物流網を整備するなどして赤字体質の経営を続けてきたが、その結果として、米国の電子商取引市場で圧倒的な存在感を築いた。そのうえでプライム会員の年会費を値上げするといった戦略も打ち出しており、投資に見合った利益を回収することを忘れているわけではない。

 このため「アマゾンは物販の顧客拡大のためには、タブレットやスマホでは収益トントンでいいとみている」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)との分析もある。しかし投資家の中にはアマゾンの赤字体質への不満があることも事実で、7月24日の決算発表を受けて株価は大きく下落した。ベゾス氏は多角化戦略で結果を出せなければ、市場からそっぽを向かれる可能性もある。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

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