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中国、ベトナム、フィリピン 南シナ海緊張 米、火消し躍起 試練の再均衡戦略

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中国、ベトナム、フィリピン 南シナ海緊張 米、火消し躍起 試練の再均衡戦略

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 南シナ海で、領有権を争う中国とベトナム、フィリピンとの緊張が高まり、米政府は情勢の激化を阻止するため、各国に自制を促している。バラク・オバマ大統領(52)は先のアジア4カ国歴訪で、安全保障の重心をアジア太平洋地域に移す再均衡(リバランス)戦略を、補強したばかり。これに反発する中国の、今回の事案に対する出方を注視しており、ウクライナ情勢も抱え、新たな火種をもみ消したいというのが本音だ。

 石油掘削作業を批判

 「紛争への拡大を防ぐには、緊張を高める一方的な行為を控えるべきだ」

 ベトナムを訪問中のラッセル米国務次官補は5月8日、首都ハノイでミン副首相兼外相らと会談し、パラセル(中国名・西沙)諸島の周辺海域における中国の石油掘削作業を批判した。同時に「領有権問題は平和、外交的に解決されるべきで、力の行使は控えなければならない」と自制を求めた。

 こうした意向を米政府は、中国にも伝えている。

 今回のパラセル諸島周辺海域における中国の動向について、米戦略国際問題研究所(CSIS)のアーネスト・バウアー氏は、オバマ大統領のアジア歴訪による再均衡戦略の補強を踏まえ、「中国はベトナムの(中国に抵抗する)決意を試している」と指摘。「米国がウクライナ情勢に気を奪われている間に、中国は南シナ海で現状の変更を企てている」と、懸念を示す。

 「南シナ海の領有権に関する関係当事国のいずれの主張にも、くみしない」(サキ国務省報道官)との立場を取る米政府も、バウアー氏が指摘する問題意識と危機感を、基本的に共有しているとみられる。

 米国の同盟国であり、先に新たな軍事協定に署名したフィリピンはもとより、非同盟国のベトナムもオバマ政権の再均衡戦略上、極めて重要な存在だ。政権はベトナム中南部のカムラン湾を、米国の非同盟国における米軍艦船の“拠点”とすべく、軍事協力関係を強化しているからだ。

 露との対立も影響

 それだけに、中国の動向はオバマ政権の「決意」も試すものだといえる。仮に、1988年に中国がベトナムと南シナ海で軍事衝突したような事態に発展し、何より、米国と相互安全保障条約を結ぶフィリピンとの間で軍事衝突に至れば、尖閣諸島(沖縄県石垣市)で有事が発生した場合のオバマ政権の行動を占うものともなるだろう。

 一方でベトナムは、装備を主にロシアから調達しており、カムラン湾の再開発でもロシアに資金、技術支援を仰いでいる。ウクライナ情勢をめぐる米露の対立は、ベトナムを挟んでの米露の力関係を微妙なものにしている。再均衡戦略の一角に組み込まれている同盟国タイの政情不安も、米政府には懸念材料だ。(ワシントン 青木伸行/SANKEI EXPRESS

 ≪繰り返される衝突 背景に「米軍回帰」も≫

 豊富な海洋資源を埋蔵し海上交通の要衝でもある南シナ海の権益をめぐり、中国と東南アジア諸国は1960年代末期から摩擦を繰り返してきた。ここにきて双方の緊張が急激に高まっているのは、4月末に決定した米軍のフィリピン回帰も背景にありそうだ。

 南シナ海にはパラセル(西沙)諸島とスプラトリー(南沙)諸島を中心に200以上の島や岩礁などが存在する。中国はすべての島嶼(とうしょ)の領有権を主張し、ベトナムなどと争ってきた。

 74年にはパラセル諸島で南ベトナム軍(当時)と衝突し、パラセル諸島全域を掌握。88年にもスプラトリー諸島でベトナム軍を攻撃し、一部の島を実効支配下に置いた。さらに92年に米軍がフィリピンから撤退すると、フィリピンが領有権を主張していたスプラトリー諸島のミスチーフ環礁を95年に占拠した。

 中国の狙いの一つは、海洋権益の確保だ。中国側は南シナ海の資源埋蔵量を石油が367億8000万トン、天然ガスは7兆5500億立方メートルと推計、「第2のペルシャ湾」と期待している。

 もう一つは米国の軍事力への対抗だ。潜水艦基地のある中国海南島は南シナ海の深海部につながる。南シナ海から西太平洋に進出すれば、米海軍のプレゼンスをそぐことも可能になる。

 しかし、オバマ米大統領のアジア歴訪時に決定したフィリピンへの米軍回帰は、南シナ海での軍事バランスを再び揺さぶり始めた。

 今回、ベトナムに近い海域で石油掘削を本格化させたことに関して、中国側は「10年間続けてきた事業で今年始まったわけではない」(中国外務省の易先良・国境海洋事務局副局長)と強調している。だが、米軍回帰の動きに対抗し、実効支配への強固な意志を示す必要が中国に生じたとの見方も強い。(西見由章/SANKEI EXPRESS

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