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中国「バブル崩壊」先送り 世界に不安まき散らす

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中国「バブル崩壊」先送り 世界に不安まき散らす

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中国の不動産融資と不動産相場の推移(前年同期比増減率%)=2007年3月~2014年3月、※データ出所:CEIC、中国人民銀行  【国際政治経済学入門】

 中国の不動産相場の下落が地方にも広がっている。数年も前から機会があるごとに「中国バブルの崩壊」を論じてきた筆者には、知り合いの読者から「今度こそ、本当にオオカミは来るでしょうね」と冷やかされるが、「崩壊し切れないから問題がさらにこじれるのですよ」と答えることにしている。

 まず「バブル崩壊」の定義をはっきりさせておこう。単に不動産や株式などの資産相場が暴落する事態を指すと見なすのは不正確である。資産相場が継続的に下落する中で、金融機関が巨額の不良債権を抱え込み、信用不安に発展して、初めて「バブル崩壊」になる。日本の1990年代初め、米国の2008年9月のリーマン・ショックが典型例だ。

 では、中国が上記のようなプロセスをたどるだろうか。グラフを見ると、不動産相場はリーマン・ショック後に急激に落ち込んだが、銀行による不動産融資の増加とともに急回復した。その後、不動産投資の過熱を警戒した北京当局は不動産融資圧縮を国有商業銀行に命じたところ、相場は急降下した。そこで一転して13年には融資規制を解除して相場にてこ入れした。すると、相場は再上昇した。

 共産党の指令一つで

 ここで留意すべきは、中国の「影の銀行」である。地方政府機関を含む不動産開発業者は銀行からの融資と、「理財商品」と呼ばれる高利回りの信託商品で資金調達している。銀行は理財商品のおよそ半分を保証している。過去5年間を合計すると、銀行はおよそ17.5兆元(約300兆円)の不動産関連債権を持つ。中国の国内総生産(GDP)の3割近いので、確かに不動産相場が急落し続けると、信用恐慌に発展してもおかしくないが、現実はそうなるとは限らない。

 中国共産党の指令一つで、中国人民銀行が創出かつ管理する巨額の資金が配分される。相場急落を続けるようだと、党中央は人民銀行と国有商業銀行に命じて国有企業や地方政府に資金を流し込む。この「奥の手」は以前、上海株の急落時に使われている。

 第2に、理財商品が焦げ付いた場合、やはり党指令で資金が投入され、理財商品への投資家は保護され、「取り付け」騒ぎを防げる。第3に、仮に大手国有商業銀行のバランスシートが大きく毀損(きそん)しても、中国は380兆円以上の外貨準備を保有している。この外準を金融機関向け資本注入用に使える。現に、北京当局は2000年代後半に、大手国有銀行を香港などに上場させる際に、外準を使って不良債権を償却させている。

 最後に、信用不安というのは、金融機関が国内外で資金調達難になることを意味する。債務超過」が露見したときなのだが、不透明な党指令型のシステムでは、債務超過を見えなくすることも可能なのだ。そんな具合で時間を稼いでいるうちに不動産相場が反転すればまずは一件落着である。12年にも中国主要都市で不動産相場が急落したことがあったが、その後の相場再上昇でバブル崩壊説は空振りだった。

 生き残る無駄と過剰

 ところがバブル崩壊不発の代価は法外に大きい、と言わざるを得ない。

 資産バブルの崩壊というのはその規模の大小、期間の長さを問わず、行き過ぎた市場の誤りの大調整といえる。もちろん、日本の90年代バブル崩壊や米リーマン・ショックのように、実体経済に及ぼす衝撃はすさまじい。だからといって、崩壊を封じ込むことに成功したとしても、その国の市場経済の不均衡の構造は温存される。腐臭を放つどろどろのバブルに蓋をかぶせて押さえつけたところで、バブルの増殖が止まるわけではない。

 中国の場合、バブル崩壊がないから、無駄な不動産開発、過剰開発、過剰生産が整理されることもない。構造改革のきっかけは失われ、非効率な投資が延々と続く。結果が乱開発による国土崩壊の加速であり、歯止めが一向にかからない環境汚染であり、汚染物質は近隣アジアばかりでなく地球全体に広がる。

 経済不振は出稼ぎ農民の雇用条件悪化や710万人もの新卒者の就職難を招いている。共産党一党支配を正当化してきた経済の高度成長が再現不可能になったため、党中央は若者や農民の不満の矛先を日本など外部に向ける排外的な膨張主義政策をとる。

 不動産や株価、購買指数など中国の市場や景気指標が下降するたびにグローバルな市場不安へと伝播(でんぱ)する。チャイナ・リスクはバブル崩壊が現実に起きないからこそ、今後長期にわたって世界を揺るがし続けるだろう。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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