そんなわけだから、ダニエル・ブリュールにとって、本作のウィーンプレミアはもっとも緊張を強いられる“洗礼”の場だった。「『ブリュールがオーストリア人を演じる？　無理でしょう』。彼らにははなから失敗すると思われていたんですから。でも、自分なりによくやったぞと思える出来栄えにしたつもりです」

　クリス・ヘムズワースは、すでに亡くなった人物のイメージを、過去のインタビュー記事を読んだり、インターネットで動画を何度も見るという正攻法でつかんでいった。「動画が特に参考になりました。テレビではとても放送できない、歯に衣着せない発言をたくさんしていました。彼は大きな子供なんですよ。協調性はまるでなく、エチケットなどお構いなしという態度が伝わってきましたよ」

　自分が自分の批判者

　Ｆ１マシンの運転は、どの程度までスタントなしで臨んだのか。「フィフティー、フィフティーですね」とジョークを飛ばすヘムズワースを遮り、ブリュールはこんな説明をしてくれた。

　「僕らが考えていた以上に実際に運転しました。物事には迅速に反応しなければならず、身体的にも高いレベルのことが要求され、精神面にも強くなければならない」。Ｆ３のコースで２人乗りを体験したブリュールは、怖いもの知らずでなければドライバーは務まらないと痛感したそうで、コーナーで限界までブレーキを踏まない彼らの感覚は「狂っている」とすら思えた。

　本作はまた、絶望のふちに落とされたときの処方箋も提示している。ブリュールがラウダから学んだ心構えは、何事に対しても「恐れるな」というものだった。「僕は人の意見に一喜一憂していたんですよ。それが自分の気持ちが落ち込んでしまう原因にもなっていました。だから、後ろを振り返らず、前へ進んでいくこと。簡単ではありませんが、そんな気持ちでいられれば、再び起き上がれる」。同じ質問をヘムズワースに投げると、身長１９０センチを超える筋骨隆々の彼らしい返事が返ってきた。「体を動かすことです。頭の中に嫌なことが詰まってしまっている状況だから、例えばサーフィンをしたりして、頭の中から抜くようにするんです。悪い状況の分析をしすぎると、かえって体に良くないからね」

　ブリュールとヘムズワースには、自分を高めてくれる特定のライバルはいるのだろうか。質問を最後まで聞かずにお互いを指さすお約束の答えをくれた２人。その後、ヘムズワースが言葉を継いだ。「僕は自分自身の最大の批判者なんだ。だから最大のライバルは自分かな」。ということは、２月１日に公開されたばかりのもう一つの主演作「マイティ・ソー　ダーク・ワールド」（アラン・テイラー監督）も文字通りライバルとなりそうだとジョーク交じりに指摘すると、「ワッハッハ」と豪快に笑って親指を立てるジェスチャーをみせた。２月７日、全国公開。（高橋天地（たかくに）／ＳＡＮＫＥＩ　ＥＸＰＲＥＳＳ　（動画））

　■Ｄａｎｉｅｌ　Ｂｒｕｈｌ　１９７８年６月１６日、スペイン生まれ。父はドイツ人、母はスペイン人。生後すぐにドイツへ移住。ドイツ国籍。２００３年「グッバイ、レーニン！」で有名に。主な出演作は、０４年「ラヴェンダーの咲く庭で」「ベルリン、僕らの革命」、０７年「ボーン・アルティメイタム」、０９年「イングロリアス・バスターズ」、１１年「コッホ先生と僕らの革命」など。

　■Ｃｈｒｉｓ　Ｈｅｍｓｗｏｒｔｈ　１９８３年８月１１日、オーストラリア生まれ。テレビドラマを経て、２００９年「スター・トレック」で映画界へ。１１年「マイティ・ソー」の主人公ソーで大ブレーク。主な出演作は、１２年「アベンジャーズ」「スノーホワイト」など。１０年に結婚したスペインの女優、エルサ・パタキ（３７）との間に娘が１人いる。弟は俳優のリアム・ヘムズワース（２４）。

　※映画紹介写真にアプリ【かざすンＡＲ】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます（本日の内容は６日間有効です＜２０１４年２月１２日まで＞）。アプリは「Ａｐｐ　Ｓｔｏｒｅ」「Ｇｏｏｇｌｅ　Ｐｌａｙストア」からダウンロードできます（無料）。サポートサイトはｈｔｔｐ：／／ｓａｎｋｅｉ．ｊｐ／ｃｌ／ＫａｚａｓｕｎＡＲ