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ジュース1本につき10円寄付 自販機で刑務所出所者の更生支援

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ジュース1本につき10円寄付 自販機で刑務所出所者の更生支援

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 【ソーシャル・イノベーションの現場から】

 ジュースやお茶を買うと1本につき10円が寄付される自動販売機が12月12日、福岡空港国内線ターミナルのロビーに設置された。寄付金は少年院や刑務所を出た人の更生支援に役立てられる。再犯問題が深刻化するなか、広く社会から寄付を募り、少年院出院者や刑務所出所者の社会復帰を支える新たな支援策が動き出した。

 窃盗や傷害など一般刑法犯による再犯率は1997年以降、増加傾向にあり、2012年は過去最悪の45.3%となった。刑務所入出歴が多いほど再犯率が高く、初犯の24.4%に対し、3回以上では59.6%に跳ね上がる。また無職の保護観察者の再犯率は、職のある場合に比べ約5倍も高い。早い段階での就労支援が再犯防止のカギになる。

 法務省は、元受刑者の就労を促進するための「協力雇用主」制度に取り組んでいる。今年4月の協力雇用主は1万社を超え、その数は年々増加している。しかし、実際の雇用者数は879人にとどまり、制度が機能していないのが現実だ。背景には元受刑者のコミュニケーション能力の問題がある。働く機会が得られても、上司や同僚との関係が上手く築けず、職場を離れ、再犯を起こすケースは少なくない。

 夢かなえる奨学制度

 昨年12月、元受刑者の社会復帰を支援しようと、福岡市にソーシャルビジネスを行う企業が誕生した。代表は保護司として長年、元受刑者の更生を見守ってきた副島勲氏。仮釈放者と面談するなかで元受刑者の社会復帰の難しさを痛切に感じた。「仕事、住居、教育」の三位一体の支援が必要と考え、会社を立ち上げた。社名は「ヒューマンハーバー」。「母港のように迎え入れ、社会に送り出したい」との思いが込められている。

 元受刑者の教育のため元高校教諭を採用し、教科や一般常識を教える。また刑務所出所後、社会に戻ることに不安を抱える元受刑者には専門家によるカウンセリングも行う。ヒューマンハーバーで初めて雇用された32歳の元受刑者は、ペットショップで働きたいと将来の夢を語り、ネットで犬や猫のことを勉強しているという。ドッグトレーナーやトリマーになりたいと夢は広がっていく。夢を実現させるために努力することは更生にもつながる。副島氏は「元受刑者の夢をかなえる奨学制度を作ろう」と、8月から議論を始めた。

 1000台目指す第1号

 奨学制度の創設に当たり、3年間は日本財団が奨学金を給付することになった。それ以降は、自動販売機で基金を作る計画を立てた。法務省の「再犯防止対策に関する特別世論調査」によると約6割の人が元受刑者の立ち直りに協力したいという意向を示している。広く社会から寄付を募ることは、更生支援に対する理解者を増やすことにもなる。「1000台を目指そう」と、ヒューマンハーバーでは、取引先や経済団体を訪問、設置依頼に動き出した。福岡空港ビルディングから「検討」の連絡があったのは、10月中旬。第1号を福岡空港に設置することになった。

 自動販売機のデザインは、CIデザイナーの稲吉紘実氏が無償で引き受けてくれた。稲吉氏は2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が推進する「ユヌス・ソーシャルビジネス」のロゴをデザインしたデザイナーで、ヒューマンハーバーは日本で初めてユヌス・ソーシャルビジネスの認定を受けた企業であった。

 12日の設置式には企業経営者ら約120人が集まった。日本財団の笹川陽平会長は「ささやかな協力が大きな力に育つ」と、自動販売機の設置拡大を呼びかけた。また「社会のために協力したいという志を実行することが素晴らしい社会を作る」と、福岡空港ビルディングの麻生渡社長に感謝の言葉を述べた。まず3年間で300台を設置することを目標に、支援の輪を広げていく。(日本財団 広報グループ 福田英夫/SANKEI EXPRESS

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