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生徒の成長を測る「指標」作り 早大生が取り組み
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「父が教師だったことから、知らず知らずのうちに良い教育とは何だろうと考えるようになった」と話すのは、早稲田大学1年生の森山健太さん(18)。試験の成績だけが重視されがちな現在の教育に疑問を抱き、生徒の心の変化や成長を客観的に評価できる「指標」を作ろうと考えた。
森山さんら早大の学生たちは今夏、2009年から筑波大学付属坂戸高校で行われている主体的に行動できる人材の育成を目指したプロジェクトに参加した。坂戸高校と「日本財団学校プロジェクト」(通称・学プロ)が共同で行っているもので、「FEEL(課題認識)」「THINK(課題解決方法の計画)」「ACT(計画の実行)」「SHARE(情報共有)」の4つの要素を取り入れたプログラムを実施。今年も夏休みを活用し、2年生を対象に2カ月間の授業が行われた。
生徒たちは「登下校で通用門を利用したい」「購買部でお手軽なデザートを買いたい」といった身近なテーマを設け、意見を出し合い、解決策を探る。それぞれの提案には正解もなければ間違いもない。
まずは自ら考え行動し、失敗も含め経験することを重視している。授業を担当する教師の深澤孝之さん(43)は「机上の勉強だけでなく、実体験を通した経験値を習得してほしい。たとえ失敗をしても、自ら心体を使って行動したことを通じ学ぶことは多いと思う」と話す。
以前にこの授業を受けた女子学生は、「地域における聴覚障害者とのコミュニケーション不足」を課題に挙げ、きっかけづくりとして、手話によるカラオケ大会を開いた。その後も手話を学び、社会に役立ちたいとの思いから看護学校に進んだ。また、ある男子学生は、「授業を受けるまで社会課題について考えたこともなかった」と振り返り、地域を理解するために近所を自転車で散策するようになったという。生徒の受け止め方や心の変化はさまざまだが、経験を通じ、何かを感じているのは確かなようだ。
こうした生徒の成長を一定の「指標」に基づいて評価し、課題解決力の向上に生かすことはできないだろうか。そんな指標があれば、試験では見えてこない能力を引き出し、伸ばすことができる。早大の学生たちが、学プロに参加したのは、学力偏重の現在の教育制度に疑問を持ったからだった。
早大4年の蒲田智士さん(21)は「他人の意見に耳を傾け、その上で自分の考えをブラシュアップしていくプロセスが問題解決力を高めるのではないか」と考え、生徒たちの議論やグループ活動について調査することにした。
1年の大坂和也さん(19)は「問題解決力といっても、一言では説明ができない。何をどう測ればいいのだろう」と、評価項目を洗い出した。「評価するには、目に見えるデータが必要。でも生徒によって表現力には差があり、書いてもらったものだけでは不十分なのではないか」と考えた3年の小田切里菜さん(21)は、アンケート結果を分析した。試行錯誤しながら指標作りは現在も続けられている。
グローバル化や少子・高齢化など激変期にある現代社会では、自分の意見をしっかり持つと同時に、他人の価値観を尊重できる力が求められるといわれている。教育の現場では、試験の成績を上げることだけに努力を費やすのではなく、生徒の主体性や自由な発想力を高めることがますます大切になる。次代を担う大学生たちが取り組んでいる新しい指標は、きっと未来を切り開く力となるはずだ。(日本財団公益・ボランティア支援グループ 高木萌子/SANKEI EXPRESS)