SankeiBiz for mobile

被災地ボランティア学生座談会(下) 「関係」から「つながり」へ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの社会

被災地ボランティア学生座談会(下) 「関係」から「つながり」へ

更新

仮設住宅での足湯ボランティア活動。被災地では今なお多用なボランティア活動が必要とされている=2012(平成24)年9月16日、宮城県気仙沼市(日本財団撮影)  【Campus新聞】

 「現地で、『一回の募金で10万円もらうより、一年に一回1万円を10年もらうほうがうれしいんだよ』と言われた。その時に、忘れないことの大切さと、忘れてほしくないという現地の人の思いを感じた気がした。震災から2年がたったけれど、10年後も唐桑に行きたい」。私は、被災地を何度も訪れるようになったきっかけについて、こう話した。

 根岸さんも「地元の人と関わり合う中で、この地域がどう変わっていくのか、街づくりがどんなかたちで進んでいくのか、ワクワクするようになった。被災地というのではなく、自分の帰る場所として、今も足を運んでいる」と言う。

 まだ自分にとって石巻は帰る場所にはなっていないという勝山さんは「今滞在させてもらっている石巻の雄勝という地域は、海もあり山もあり、本当に素晴らしい場所。この素晴らしさを広めていきたいし、ここに帰りたいと思う人を増やしていきたい」と、力強く話した。

 ボランティアとして被災地を訪れた学生が、いつしか田舎のおばあちゃんやおじいちゃんと同じように、地元の人たちに会いに帰るようになっていった。

 震災後、多くの学生たちが、東北の復興のために頑張った。それは、東北に笑顔にさせたい人がいるからではないだろうか。

 大好きな場所だからこそ、また必ず行きたい場所だからこそ、「帰る」という言葉を使う。学生ボランティアと被災者という関係が、大切な人とのつながりに変わり、これからも続いていくと確信している。(今週のリポーター:フェリス女学院大学 田中葵/SANKEI EXPRESS

 【編集後記】

 ■私が唐桑町に帰る理由

 私が大学に入学する直前の3月に震災が起きた。入学式も中止、授業も短縮、テレビも新聞も、話題は震災のことばかりだった。もう2年、まだ2年、色々な見方がある。私にとってはあっという間の2年だった。

 初めて学生ボランティアとして被災地に行ったのは震災2カ月後のことだった。場所は岩手県遠野市。100人の学生がバス2台に分乗して東京を出発。顔も名前も知らなかった学生同士が3泊4日を共にした。大きな柔道場に、寝袋にくるまりみんなで寝た。

 初めて被災地と呼ばれる場所に足を踏み入れたとき、言葉が出なかった。100人の大学生の誰もが一言も言葉を発しようとはしなかった。そのときのことは今でもしっかりと記憶に残っている。

 「何かしたい」。その思いだけで動き始めた。「全国の元気になることばで一曲の歌を作ろう」というプロジェクトを発案し、450~500もの元気になることばを集めた。大学内のホールで子供たち50人とともにコンサートを開いた。それを見た同級生たちも、「何かしたい」と声をあげた。

 活動の輪は広がり、入学から1年後には私のまわりに40人が集まっていた。「音楽で元気づけたい」と考えた学生たちと気仙沼市唐桑町でのコンサート開催に向けて動き出す。

 被災地に行った経験があるのは、私だけだった。ボランティアどころか東北にすら行ったことのない学生がほとんどだった。震災について伝えることが私の務めだと思った。伝わらず苦しいときは、帰る場所になっていた気仙沼市唐桑町のみんなのことを思い出した。

 唐桑町には何度も何度も足を運び、たくさんの人に出会い、話をした。津波の話をしながら、「それでも海は恨まねぇんだ」と言ったおじいちゃんに、これまで感じたことのない強さを感じた。

 コンサートは仮設住宅の近くのホールで2012年9月と12月の2回開いた。どちらも多くの人が来てくれた。12月のクリスマスイベントにはおよそ100人の子供が集まった。

 途中でメンバーが辞めたり、メンバーに熱意が伝わらなかったり、自分の無力さも感じた。だからこそ、「唐桑にきてよかった!」と話すメンバーと、「歌に救われた」というおじいちゃんの言葉に、私は涙が止まらなくなった。

 自分のやっていることが、ボランティアなのかと聞かれたら、よくわからないと答えるしかない。唐桑の未来を唐桑の人たちと一緒に見たい。その思いで唐桑に通っている。そのためにまた私は唐桑へ帰る。(フェリス女学院大学 田中葵)

 【本の紹介】

 「ボランティア奮闘記」は、SANKEI EXPRESSに1年余りにわたって掲載された「ボランティア被災地通信」を編集。ボランティア活動を通じて若者たちが感じた思いや心の変化、感謝の気持ちなどが描かれている。被災地に対する息の長い支援活動だけでなく、多くの若者がボランティアに参加するきっかけとなる一冊である。日本財団広報グループ編集。木楽舎。945円。

 【関連記事】 【Campus新聞】被災地ボランティア学生座談会(上) 自分たちの居場所に「帰る」

ランキング