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国際秩序を主導 「安保戦略」初策定 防衛大綱、中期防 改定

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国際秩序を主導 「安保戦略」初策定 防衛大綱、中期防 改定

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国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)-3文書の骨子=2013年12月17日  政府は12月17日、国家安全保障会議(NSC)と閣議を開き、外交・安全保障政策の包括的指針である「国家安全保障戦略」と「防衛計画の大綱」、2014年度から5年間の「中期防衛力整備計画(中期防)」の3文書を決定した。初策定の安保戦略は、安倍晋三首相(59)が掲げる積極的平和主義の立場から「国際社会の平和と安定、繁栄の確保に積極的に寄与する」と基本理念に明記。自国の平和だけを追求する一国平和主義を脱し、国際秩序の構築に主導的な役割を果たしていく姿勢を鮮明にした。

 安保戦略は、1957年に岸信介内閣が策定した「国防の基本方針」に代わるもので、約10年先を見据えた最上位の戦略文書。日本の平和に加え、自由貿易体制の維持や民主主義など普遍的価値に基づく国際秩序の維持を「国益」と定義。日米同盟を軸に各国と協力を進め「国際社会の主要プレーヤーとして積極的な役割を果たす」とうたった。

 中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、アジア太平洋地域で「平時でも有事でもないグレーゾーンの事態が生じ、さらに重大な事態に転じかねない」と指摘。政府、自治体、民間の連携を強め、武力攻撃や大規模災害など「あらゆる事態にシームレスに(継ぎ目なく)対応する総合的な態勢を構築」すると明記した。

 武器の輸出を事実上禁じてきた武器輸出三原則に代わる新原則を定め、武器の国際共同開発や平和貢献のための輸出に参画していく方針も盛り込んだ。

 安保戦略に基づく防衛力整備の指針である防衛大綱と中期防では、陸海空3自衛隊の一体的運用や南西方面への機動展開能力を重視した「統合機動防衛力」を、前大綱の「動的防衛力」に代わるコンセプトに掲げた。

 指揮系統を全国的に一元化した「陸上総隊」の創設や、離島防衛のための「水陸機動団」の創設などが柱。弾道ミサイル対応のための敵基地攻撃能力の保持については「発射手段への対応のあり方を検討し、必要な措置を講じる」と間接的な表現で盛り込んだ。

 ≪中朝の脅威が拡大 防衛力整備が不可欠≫

 安倍政権が防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画をわずか3年で改定したのは、軍拡を推し進める中国や北朝鮮への危機感が背景にある。中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)への領海侵入や、尖閣上空への一方的な防空識別圏の設定など日本の領有権を脅かし、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮はさらなる強硬路線を歩みかねない。安倍政権は、近隣の脅威に毅然(きぜん)と対処するには新たな防衛力整備が不可欠と判断した。

 昨年9月の尖閣国有化以降、中国は周辺で示威行為をエスカレートさせている。今月(12月)5日には中国艦艇が南シナ海で米海軍イージス巡洋艦の進路をふさごうとして緊急回避行動を取らせた。装備面でも国産空母の建造や次世代ステルス戦闘機の開発を進め、海空戦力を急速に増強している。

 これに対し、日本の防衛力整備は遅れている。昨年12月に中国機が領空侵犯した際に自衛隊はレーダーで捕捉できなかった。海上保安庁巡視船の通報で空自戦闘機が緊急発進したが、すでに中国機は飛び去っており、レーダー網の脆弱(ぜいじゃく)さをさらした。新たな大綱と中期防は対中シフトをより強め、警戒監視能力の強化を目指す内容だ。

 北朝鮮は、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が独裁体制を強め、核・ミサイル開発に加え、予測不能な軍事行動の危険性も指摘される。

 安倍首相は「精神力だけでは眼前の厳しい現実に立ち向かうことはできない」として防衛力整備の必要性を強調してきた。大綱と中期防の改定はこれを前進させるものだ。米英を中心に軍事情勢の情報共有を図るため、「NSC」を創設し、野党などの激しい批判を浴びてでも特定秘密保護法を先の臨時国会で成立させた。

 今後は、日米同盟の強化に欠かせない集団的自衛権の行使容認が課題であり、慎重姿勢を崩さない公明党が立ちはだかる。菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は12月17日の記者会見で、行使容認に向けた憲法解釈変更の時期について「来年度以降の課題になるだろう」との見通しを示した。(峯匡孝、宮田翼/SANKEI EXPRESS

 ■防衛大綱と中期防 防衛大綱は、政府が10年程度の長期間を見越して定める防衛力の整備、維持、運用に関する基本指針。正式名称は「防衛計画の大綱」。これに基づき5年ごとに「中期防衛力整備計画(中期防)」で詳細な部隊規模や経費を明示する。大綱は1976年に初めて策定され、95年と2004年、10年に改定された。中期防は、軍部の独走を許した戦前の反省から予算面で文民統制の原則を徹底させ、装備増大に対する歯止めや透明性確保の役割を持っている。

 ■国家安全保障戦略(NSS) 外交・安全保障政策を軸とした政府の包括的指針。1957年に閣議決定された「国防の基本方針」に代わる文書。安倍首相が9月に策定を正式表明した。政府が参考にした米国のNSSは外交、経済、軍事の各分野に関する戦略目標を包括的に示している。

 【国家安全保障戦略などの骨子】

 <国家安保戦略>

・平和国家の歩みを堅持し、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から国際社会の平和と安定、繁栄の確保に積極的に寄与

・政府・自治体、民間の連携強化で武力攻撃や大規模災害などあらゆる事態にシームレスに対応できる態勢を整備

・領域警備の法執行機関を強化。国境離島を保全。シーレーン安全確保へ各国と協力。武器輸出三原則を見直し

 <防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)>

・専守防衛・文民統制、非核三原則を守りつつ実効性の高い「統合機動防衛力」を整備

・警戒監視、輸送、情報通信、島嶼攻撃への対応、弾道ミサイル対応、宇宙・サイバー空間、災害対応などの能力を重視

・弾道ミサイル発射手段への対応能力のあり方を検討し、必要な措置を講じる

・陸自師団や旅団を機動性重視に改組。指揮系統を全国的に一元化した陸上総体を新設し、傘下に水陸機動団を新編

・イージス艦を2隻増。ティルトローター機、無人偵察機、新たな早期警戒機を導入

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