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現在の秘密保護法案では官僚が秘密独占

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現在の秘密保護法案では官僚が秘密独占

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国会・衆院本会議で安倍晋三(しんぞう)首相(右)と話し込む特定秘密保護法案を担当する森雅子少子化担当相=11月7日(宮崎裕士撮影)  【佐藤優の地球を斬る】

 「国家安全保障会議(日本版NSC)」は、日本国家の死活的利益にかかわる問題を力によって処理するか否かを政治決断する機関だ。国際基準で言うなら、戦争をするかどうかについて日本国家の意思を決定する機関だ。大日本帝国憲法で規定されていた統帥権を行使するのが日本版NSAだ。

 戦争を想定した場合、技術面、政治面での秘密保全が不可欠になる。大日本帝国憲法下では、1937年に全面改正された軍機保護法で技術面の情報、41年に制定された国防保安法で政治面の情報が保全されていた。特定秘密保護法に要請されているのは、民主制度に合致した形で、国防に関する技術面、政治面の情報を保護することだ。

 適性評価免除の落とし穴

 現行の特定秘密保護法案が成立すると、インテリジェンス情報や機微に触れる軍事情報は、官僚に独占されることになる。それは、適性評価を通過した者しか、特定秘密を取り扱うことができなくなるからだ。適性評価とは、<特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者>(法案第11条)しか特定秘密に触れることができなくする制度だ。

 一方で、法案第11条には次の規定がある。<ただし、次に掲げる者については、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることを要しない。

 一 行政機関の長

 二 国務大臣(前号に掲げる者を除く。)

 三 内閣官房副長官

 四 内閣総理大臣補佐官

 五 副大臣

 六 大臣政務官

 七 前各号に掲げるもののほか、職務の特性その他の事情を勘案し、次条第一項又は第十五条第一項の適性評価を受けることなく特定秘密の取扱いの業務を行うことができるものとして政令で定める者>(http://www.tokyo-np.co.jp/feature/himitsuhogo/zenbun.html

 首相も外国情報得られず

 なぜ、この法案だとインテリジェンス情報や機微に触れる軍事情報が官僚に独占されるのであろうか。インテリジェンスの世界には「サード・パーティー・ルール」(第三者に関する約束)という掟(おきて)がある。ある情報を特定秘密とする場合、それは適性評価に適合した者以外とその情報を共有しないという掟だ。もし「サード・パーティー・ルール」に違反した場合には、外国のインテリジェンス機関から機微に触れる情報が、その後、得られなくなる。

 現行法案の規定では、国務大臣(総理を含む)、内閣官房副長官、副大臣、大臣政務官らは適性評価を受けない。適性評価を受けないのだから、インテリジェンスの世界では、特定秘密を取り扱う資格を持たない。従って諸外国のインテリジェンス機関、国防関連機関から日本政府に提供された情報は適性評価を受けていない首相、官房長官、外相、防衛相が目にすることはできないことになる。

 現行法案がこのまま通過すると、結果として適性評価を通過したごく一部の官僚が、特定秘密を独占することになる。これらの官僚は、資格試験によって採用されただけで、民意によるチェックを受けていない。まさに特定秘密に該当する情報は、国民のものではなく、国家のものでもなく、より直截(ちょくせつ)に述べるならば、国家権力を運営する官僚のものという帰結になる。

 戦争を行うか否かの決断は、国民による選挙で選出された代表の最高責任者である首相が、特定秘密を含むすべての情報を得た上で行うべきだ。そのためには、首相の責任で自ら、官房長官、外相、防衛相ら日本国家の存亡にかかわる究極的決断に関与する閣僚の適性評価を行うことが不可欠だ。拙速に特定秘密保護法案を成立させると国益を毀損(きそん)する。(作家、元外務省主席分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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