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ロシア外務省の恫喝に怯むな

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ロシア外務省の恫喝に怯むな

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 【佐藤優の地球を斬る】

 プーチン露大統領とロシア外務省の間には、対日外交戦略を巡って温度差がある。そのことが9月26日、ロシア外務省が公式ウエブサイトに掲載した「クリル諸島(引用者註*北方領土に対するロシア側の呼称)訪問後の山本一太(いちた)日本国沖縄及び北方対策担当・科学技術政策担当・宇宙政策担当大臣の発言に関するロシア外務省情報出版局のコメント」で明らかになった。以下、ロシア語から全文を翻訳しておく。

 ビザなし交流「留保する」

 <モスクワにおいては、本年9月23日に根室市で行われた記者会見の席上、山本一太日本国沖縄及び北方対策担当・科学技術政策担当・宇宙政策担当大臣が、「再び(日本の北方)領土返還についての思いを強くした」という発言に注意が向けられている。

 この発言は、二国間の国際条約を基礎に実現されているビザなし交流の枠組みでの南クリル諸島への山本一太を団長とする日本市民グループの訪問の総括としてなされた。

 本件に関連して以下のことを指摘したい。南クリルへのビザなし交流は、日本市民、とりわけこれら諸島の元島民に祖先の墓参を認める人道的行事とみなされている。このような形態の交流は、両国国民間の信頼と相互理解を強化することを目的としている。南クリルを訪問したこと、ましてや露日間の平和条約締結問題のような機微に触れる問題に関する政治的声明は、この件に関する交渉をめぐる平穏な環境を支持することに関する両国指導者の合意に外れており、矛盾している。

 仮に何らかの理由で日本の政治家がロシア領を訪問した後、「先鋭なテーマ」についての公の発言を抑制することができないのならば、今後、かかる訪問に彼ら(日本の政治家)の参加する権利を(われわれは)留保する。>(http://www.mid.ru/brp_4.nsf/newsline/3ED8071500A5D32144257BF20023FCBC

 外交的に無礼で、きわめて強圧的な発言だ。北方領土問題に関しては、日本には日本の立場があり、ロシアにはロシアの立場がある。山本大臣が、訪問先の国後島でロシア系住民に対して、「ロシアはこの島を不法占拠している。あんたたちがこの島に住んでいる法的根拠は存在しない、その現実を認めて、一日も早く北方領土の日本返還を支持しろ」という大演説を行ったならば、ロシア側が「係争地で日本の立場を主張することはいかがなものか」とクレームをつけても合理的だ。しかし、日本の政治家が、日本の領土であり、実効支配している北海道根室市で、北方領土問題に関する日本政府の周知の立場を述べたからといって、ロシアの国益が毀損(きそん)されるわけではない。

 仮に首相官邸や外務省が、ロシア外務省の一部局の声明(この声明は外務大臣ではなく、情報出版局という低いレベルのもの)に過剰反応し、ビザなし交流で北方領土を訪問した政治家が、領土返還について述べなくなると、ロシアの一部勢力はそれに味をしめて、今度は返還運動関係者の北方領土訪問を規制し、日本のマスメディアの報道にも「平和条約交渉の平穏な環境を害する」といってクレームをつけ、報道の自粛を求めてくるであろう。

 発言禁止する権利なし

 この声明を起案したロシアの外務官僚は、日本の政府、政治家、国民を軽く見ている。この声明で、ロシア外務省は、<日本の政治家がロシア領を訪問した後>と述べているが、これはロシア側の一方的認識に過ぎない。山本大臣をはじめとする日本代表団は、日本の領土である国後島に訪問したのであり、主権国家である日本の政治家、報道関係者、国民が、自国の領土に関して自らの信念に基づいて発言することを、外国政府に禁止する権利はないのである。ロシアの気に入らない発言をする日本の政治家を北方領土に入域させないなどというロシア外務省の一部勢力による恫喝(どうかつ)外交こそ、安倍晋三首相とプーチン大統領が構築した信頼関係を壊すものだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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