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露が過小評価するオランダのネットワーク

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露が過小評価するオランダのネットワーク

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 【佐藤優の地球を斬る】

 オランダのハーグに駐在するロシアの外交官、ドミートリー・ボロジン公使が10月5日、警察によって児童虐待容疑で一時拘束された。ロシア側は暴行も受けたとしている。その10日後に、モスクワに在勤するオランダの外交官、オンノ・エルデンボッシュ公使が電気工事を装い私邸を訪れた2人組の男性に暴行された。ロシアとオランダの間では尋常でない事態が起きている。現時点において、両国とも事態を沈静化させる意思はないようだ。

 外交官襲撃事件

 <オランダ政府は22日までに、北極圏の海で油田開発への抗議活動をしたことをめぐり、ロシアで海賊行為の罪で起訴された国際環境保護団体グリーンピースの活動家ら30人の釈放を求める訴えを、国際海洋法裁判所(ドイツ・ハンブルク)に起こした。

 活動家らが乗っていた船はオランダ船籍。オランダ政府は今月、ロシアが船の差し押さえを解くよう、国際海洋裁判所に仲裁を求める手続きを取った。これに絡み、暫定措置として釈放を求めた。

 オランダ政府は1カ月以内の判断を望むとしている。訴えが認められ釈放されても、ロシアでの裁判手続きは影響を受けず、継続される見通し。

 30人は、ロシア政府系企業の関連会社が進める油田開発に抗議するため、9月18日に砕氷船で掘削施設に接近。うち2人が施設によじ登ろうとしたことなどが「海賊行為」に当たるとされた>(10月22日、MSN産経ニュース)

 オランダは、グリーンピース活動家28人とそれに同行したジャーナリスト2人が、ロシア当局に拘束された事件を国際問題化することによって、「ロシアは文明国で標準とされている人権基準を順守していない」というキャンペーンを展開することを意図している。オランダは明らかに感情的になっている。その背景には、モスクワでのオランダ外交官襲撃事件がある。外交官は、国家を体現している。今回、エルデンボッシュ公使を襲撃した2人組は、ロシア当局の指示を受けていると考えるのが、この業界の常識だ。それをロシア側は、政府が一切関知しないところで暴漢が行った行為であるという立場をとっている。このような不誠実な謀略的手法にオランダは腹を立て、ロシアに対する報復を考えているのだ。

 ロシア当局は、オランダがロシア国内において持つ反体制派のネットーワークを過小評価している。

 1967年の第三次中東戦争(6日戦争)でアラブ連合軍を支持したソ連はイスラエルとの外交関係を断絶した。外交関係を断絶した場合、何かあった場合の窓口(利益代表)になることを第三国に依頼する。第二次世界大戦中、米国における日本の利益代表をスペインが、日本における米国の利益代表をスイスが務めた。ソ連におけるイスラエルの利益代表は、オランダが務めた。東西冷戦中、米ソ間の重大懸案は、ソ連からのユダヤ人出国問題だった。ソ連在住のユダヤ人に対して、イスラエルへの入国ビザを発給する作業はモスクワのオランダ大使館が行っていた。1980年代後半、ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長が、ユダヤ人の出国要件を緩和すると、イスラエルの諜報機関員が、オランダの外交官という建前で(当然、ソ連当局の了承を得て)、オランダ大使館で勤務し、イスラエルの入国ビザ発給に従事するようになった。

 ロシアのユダヤ人は体制側、反体制側の双方に強力なネットワークを持っている。ユダヤ人たちは、苦しいときにリスクを負ってユダヤ人の利益を守ったオランダに好意的だ。今回、ロシア当局が乱暴な手法でオランダに圧力をかけていることに対して、ユダヤ人たちは批判的だ。このことをプーチン政権は過小評価している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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