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最高裁の「峰打ち」にあぐらをかくな

 昨年12月の衆院選の一票の格差をめぐる上告審判決で、最高裁大法廷が「違憲状態」だったとの判断を示した。選挙無効の訴えは退けられたが、同時に「後の国会の動向いかんでは選挙無効がありえないではない」という“警告”が出された。訴訟対象の31選挙区の現職国会議員に対して、今回だけは「峰打ち」(公明党幹部)で大目に見るといったところだろう。

 国会の努力は本物か

 最高裁が2011年3月の判決で「違憲状態」としてから、国会は格差是正に向けて、本当の意味で真剣に取り組んだといえるだろうか。

 昨年11月に成立した選挙区の「0増5減」が盛り込まれた緊急是正法と、今年6月の公職選挙法改正でもって、今回の判決では「一定の前進と評価できる」としたが、弥縫(びほう)策にすぎないことは明らかだ。

 自民党が緊急是正法案を了承した総務会の席上で、当時の党幹部の1人は福井や高知など「5減」の対象県選出の議員に「この是正策は次回選挙では実現されないから、安心して了承してほしい」と呼びかけ、出席者を唖然とさせた。

 民主党は、早期の衆院選を回避するために、選挙制度改革の各党協議会を迷走させた。各党が選挙公約に盛り込んでいた定数削減が遠のくためとしていたが、緊急是正法にも不満たらたらで、本気の努力を重ねたとは言い難い。

 地方の過疎化は今後も進行することが避けられず、現行制度をベースにした選挙制度改革では、国勢調査が行われるたびに一票の格差が広がり、選挙無効を求める訴訟が発生するのは明らかだ。

 今回の最高裁判決が「峰打ち」で済んだのは、せっかく安倍晋三政権が日本経済の再生や外交の建て直しに取り組んでいるところを「お手討ち」で混乱させたくないという司法の配慮ではないかという見方もある。

 政界随一の「選挙博士」として知られる細田博之自民党幹事長代行は「読めば読むほど味の出る良い判決であります」とご機嫌だったが、峰打ちにあぐらをかくような風情では、当座をしのぐ妥協の改革を重ねていくことになりかねない。

 大量の「1期限り」議員

 過去3回の衆院選で初当選した議員数をみてみると、05年の郵政解散総選挙では101人(参院からの鞍替えを含む、総務省資料)、民主党へ政権交代した09年の総選挙では184人。自民党が政権を奪還した昨年12月の総選挙では158人だった。世襲・非世襲に限らず、政党の公認候補が世代交代したことを受けて、初当選した議員もかなり含まれているとしても、3割以上が“新人”という計算になる。

 一方で、郵政選挙で当選した自民党の「小泉チルドレン」83人のうち次の選挙で議席を得たのは10人、09年初当選の民主党の「小沢チルドレン」の生き残りは5人ほどだった。大政局でも起きない限り次の解散総選挙までは平均して3年間あるが、国会議員として初当選して3年間務め、次の3年間は失業、あるいは廃業というのでは、満足なキャリアは築けないという不満がくすぶるのも無理はない。

 民主党政権で防衛相が「自分は(防衛政策では)素人だが、これが本当のシビリアンコントロールだ」と開き直って世間を驚かせた。これは論外としても、国会対策や官僚“操縦術”といった特殊技能を身につけるには「10年くらい素養を積む時期が要る」とベテラン議員は言う。各党で「スター」や堅実な実務家が貴重な存在になっている遠因の一つに現行の選挙制度がある。

 風向き次第で1期限りの議員を大量に生み出す不安定な仕組みのままでは、有為な人材の多くが政治家となることに二の足を踏むだろう。そろそろ抜本改革を検討してもいい頃だ。(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS

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