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消費税増税の前に何かお忘れでは?
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永田町は何年ぶりかの夏の凪(なぎ)が終わり、政策課題の解決に動き始めた。さし当たって国民の誰もが影響を受ける大課題といえば消費税増税だ。予定どおり来年4月に3%アップとなるのかどうか。大きな買い物を考えていてもいなくても大いに気になる。経済学者のなかで賛否が分かれているのはいつものことだとしても、安倍晋三政権のブレーンや閣僚、与党内からさまざまな意見が発信されている。
今月(8月)17、18日に行った産経新聞社とFNNの合同世論調査では、来年4月に消費税を8%に上げることについて「賛成」は38.1%で、「反対」は57.4%だった。昨年9月1、2日の同じ調査で「年金などの社会保障の財源として消費税率を2014年度に8%に、2015年度に10%に引き上げる社会保障と税の一体改革関連法が成立したことを評価するかしないか」という問いには、「評価する」が48.1%。「評価しない」の47.8%をわずかとはいえ上回っていた。
もちろん、質問の角度が異なるので単純な比較は無理がある。昨年の結果は、民主党政権の「決められない政治」に飽き飽きし、とりあえず決定したことを評価した結果かもしれない。ただ、その要素を割り引いても、この一体改革関連法の成立は、消費税増税へのカウンドダウンを起動させるものだ、ということはわかった上での回答だったことは間違いない。
“予定通り増税派”の自民党のベテラン幹部から、こんな声が聞こえてきた。
「現実に増税間近ということになったら、国民感情はそういうもんでしょ」
いざ刻限が迫ると、有権者も経済界もメディアも自分の懐が痛むのを気にしてためらうのは織り込み済みで、いちいち気にしていられない、ということのようだ。
これには正直、「むかっ」ときた。本当に増税が必要だと考えるのなら説明を重ねて、国民にもう一度、覚悟をしてもらう努力が必要なのではないか。
政治の側には大きな「お忘れもの」もある。
そう、国会議員の定数削減だ。
「国民に納得していただくには議員数も減らさなければいけない。いち早く衆参両院の定数削減をやりたい」(2010年6月、民主党の玄葉光一郎政調会長)
「消費税率を上げる前にこの国会で結論を出そうではないか」(昨年11月、野田佳彦首相)
「消費税を上げる前にやるべきことがある。まず国会議員や官僚が自らの身を削るべきだ」(みんなの党の渡辺喜美代表の持論)
発言の時機はばらばらだが、こうした発言を受け、一部を除き与野党各党は、衆参両選挙の公約で定数削減を掲げたのではなかったのか。
いったい、どうなったのだろう。
「一票の格差」の解消を求める司法からの厳しい要請があった後も、定数削減を含めた選挙制度改革は進んでいない。与野党の実務者協議は6月に「参院選後、速やかに各党協議を再開し、結論を得る」との合意文書で体裁を整えたものの、内実は空中分解に等しい。各党に代わって民間の有識者が改革案を協議するといわれる「第三者機関」の設置もいつのことになるかわからないありさまだ。このままの状態で今秋に消費税増税の方針が決定すれば、政治が先に姿勢を示すべきだとした発言の約束は反古(ほご)になる。
定数削減を含む選挙制度改革で、全党が喜ぶ決着などありはしない。調整が難航しているのは、国会議員の都合に過ぎない。幾ばくかの歳費削減などで時間稼ぎせず、思いきって政党交付金を返上する覚悟を表明してはどうだろうか。それなら増税先行も理解されるだろう。あるいは、即座に各党の意見がまとまるかもしれない。(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS)