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老後資金の選択肢の一つ 「リバースモーゲージ」に注目
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東京スター銀行の店舗でリバースモーゲージ商品の説明を受ける顧客。内容を十分理解したうえで利用したい(同行提供) 老後の生活資金を得る方法として、自宅を担保に融資を受ける「リバースモーゲージ」が注目されている。自宅に住み続けながらまとまったお金を手にできるのが特徴。金融機関各社が多様な商品を手掛けているほか、各都道府県の社会福祉協議会も低所得世帯向けに制度の運用を手掛けている。(竹岡伸晃)
東京都内に住む会社役員の男性(74)は昨年、自宅を担保に東京スター銀行(東京都港区)から2400万円の融資を受けた。住宅ローンの返済や子供2人の教育費などにお金がかかり、「気づくとあまり貯蓄できていなかった」。
年金や勤務先からの顧問料で生活はできるが、「人生を楽しむための余裕資金を得たい」と考え、借りることを決めた。子供の結婚費用援助などに使ったほか、「夫婦で海外旅行を楽しみたい」と夢を膨らませる。
男性が利用しているのは東京スター銀行のリバースモーゲージ商品「充実人生」。本人名義の自宅を担保に一戸建て住宅の場合、最高1億円、マンションでは最高5千万円まで融資を受けられ、使った分にだけ利息がかかる。投資や事業目的以外であれば資金の使い道は自由。旅行や買い物、自宅のリフォーム、病気・介護への備えなどさまざまだ。事業を担当する同行ローンビジネスグループの原健二さんは「退職後、年金以外にある程度お金があれば生活にゆとりが生まれる」と説明する。
単身か夫婦2人で暮らす55~80歳が対象で、配偶者も50歳以上という条件がある。融資額は土地やマンションの評価額、本人の返済能力などをもとに決める。利息は毎月返済が必要だが、元本は本人死去後、相続人が担保物件を売却するなどの方法で返済する。生存中に利用が融資額に達したり、妻が融資を受けた夫よりも長生きしたりしても利息を返しながら住み続けることが可能だ。利用者数は6月末現在で約3400人。社会の高齢化が進む中、「右肩上がりで伸びている」(原さん)。
シニア世代のニーズが増えていることから金融機関各社はここ数年、続々とリバースモーゲージに参入している。みずほ銀行(千代田区)は昨年7月、「みずほプライムエイジ」の取り扱いを始めた。
東京、神奈川、千葉、埼玉に一戸建て住宅を持ち、土地の評価額が2千万円以上の人が対象。55歳以上▽単身か夫婦2人暮らし▽金融資産を保有▽年金など安定・継続的な収入がある-などの条件もある。
土地評価額の50%の範囲内で必要に応じて借りることができる。投資や事業目的以外であれば使途は自由。生きている間は返済不要で、本人が亡くなった後、相続人などが元本、利息をまとめて返済する。商品開発を担当したローン業務開発部の山口雅央さんは「もしものときへの備えとして利用する人も多い」と話す。
リバースモーゲージの仕組みを活用し、低所得者に生活資金を貸し付ける国の制度もある。生活福祉資金貸付制度の中の「不動産担保型生活資金」がそれだ。
65歳以上の世帯を対象とし、自宅を担保に「土地評価額の70%程度・月額30万円以内」まで借りることができる。実施主体は各都道府県の社会福祉協議会で、貸し付けの対象や内容、審査などの具体的な運用法は各社協で異なる。平成15年度の制度導入以来、200件強の利用があるという東京都社協は「生活状況を確認し、月々の不足分を補える無理のない貸付計画を本人と話し合って決めている」と説明する。
同制度の問い合わせ窓口は居住地の各市町村社協。
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自宅を売却したり貸し出したりしても生活資金は得られるが、リバースモーゲージは「自宅に住み続けられる」というのが最大の特徴だ。不動産コンサルティング会社「FP住宅相談ネットワーク」(横浜市戸塚区)代表でファイナンシャルプランナー、黒須秀司さんは「長年住み慣れた家を離れたくないと考える高齢者は少なくない」と話す。
担保となるのは基本的に、住宅ローンの返済が終わり、担保権が設定されていない本人名義の自宅。ただ、借りたお金で住宅ローンが返済できる商品もある。
「自分が築いた資産を自分のために使う」ものだが、黒須さんは「借入時に相続人の同意を得ておくことが不可欠」と指摘する。相続財産が減少するほか、相続人が不動産を売却するなどして返済を行うためだ。このほか(1)不動産価格下落(2)金利上昇(3)長生き-のリスクもある。(3)は存命中に融資分を使い切ってしまうリスク。黒須さんは「年金不足分を補う選択肢の一つとして注目され始めている。各商品、制度の内容を理解したうえで活用を」と呼び掛けている。