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高齢者「ルームシェア」広がる 家事分担や会話で認知症対策にも
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シェアハウスの1階にある喫茶店は近隣の住人が憩う。入居者はここでスタッフとして働くこともできる=京都府城陽市(佐々木詩撮影) 高齢者の住まいに関連し、シニア世代が支え合いながら生活を共にする「ルームシェア」「シェアハウス」という選択肢に注目が集まっている。それぞれができる範囲で家事を分担、自然と入居者同士が会話を交わし、交流が生まれることで認知症対策にもつながると、利用者や家族に好評だという。(佐々木詩)
岐阜県八百津町の山間の集落に古民家を利用した「共同生活の家・花籠」がある。家主の波多腰和雄さん(69)、咲枝さん(65)夫妻が、高齢者が共同生活できる住居を作ろうと約5年前に開設した。現在は夫妻のほか、小山田きぬ子さん(80)、山内みなさん(71)の計4人が暮らしている。
咲枝さんは元看護師。勤めていた病院で、退院を間近に控えた高齢者の「帰る家がない」という嘆きを聞いた。「家はあっても居場所がないということだったようです。年を取ってから、そんな悲しい思いをしなくて済む場所を作りたいと思いました」。約30年前から所有していた古民家を退職金で改装、設備を整えた。これまでに延べ計26人が利用している。
約2500坪の敷地には畑のほか、竹林、梅や栗の木が生え、四季折々の自然の恵みを収穫することができる。冷え込みの厳しいある日、薪ストーブの前に集まった4人が味わったのは、自分たちで手摘みしたお茶と咲枝さんが漬けた大根の漬物。「奥さん(咲枝さん)の料理はうまいよ」と小山田さんが言うと、山内さんが深くうなずく。
料理は咲枝さんの担当だが、掃除や洗濯、畑仕事はみんなで分担。自分ができることはするというルールだ。家には段差も多い。そんな暮らしを送るうちに、歩行補助具を使用していた利用者が補助具なしで歩けるようになることもあったという。
個室もあえて設けていない。咲枝さんは「ここは、『ねえ』と言えば近くに『うん』と答えてくれる人がいる場所。他人同士ですが、家族みたいなものですよ」と笑う。
こうした共同生活は少しずつ広がりつつある。京都府城陽市には昨年8月、シェアハウス「ママズ&パパス」がオープンした。オーナーの西尾泰憲さん(62)が自宅を改装し、約7、8畳の個室6室のほか、共用の風呂場、トイレ、食堂などを備えた。1階は喫茶店になっており、入居者に運営の手伝いを行ってもらう予定だ。現在、近隣の市や東京などからも見学者が訪れているという。
西尾さんの父親は退職後、家に籠もり、周囲との交流はほとんどなかった。徐々に認知症の傾向が表れ、西尾さんが介護したという。「趣味でも持って周囲と接していたら、父はもう少し元気でいられたかもしれない」。その思いからシェアハウス開設を思い立ったという。
「シェアハウスは1人暮らしの寂しさや不安を軽減できる。自分で自由に動けるうちに、こういう住まいも選択肢の一つに入れて考えてもらえれば」と話している。