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「雑誌読者」も高齢化… 総合誌、先細り回避へ続く模索
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書店に並ぶA5判サイズの総合誌=東京都千代田区の紀伊国屋書店大手町ビル店 雑誌読者の高齢化が指摘されている。特に、もともとある程度年齢を重ねた読者層を想定し、政治・経済・文化など社会全般に関する評論を扱う月刊総合誌は、この問題をどう受け止めているのだろうか。各誌でさまざまな模索が続いている。(磨井慎吾)
新潮社は昨年11月、月刊誌『新潮45』の別冊として『新潮75』を刊行した。副題は「どうする超高齢社会!」。タレントのビートたけしさん(67)を編集長に、年金や葬儀など高齢者の関心に特化した内容だ。『新潮45』の発行部数に匹敵する3万7千部を刷り、販売も好調だという。同誌の三重博一編集長(50)は「特に読者の高齢化を意識したわけではなく、あくまでワンテーマの別冊という位置づけ」と説明する。
今年で創刊32年を迎える同誌はタイトルが示す通り、社会の中枢を担う45歳前後を読者層に想定してきた。三重編集長は「雑誌読者が全体に高齢化しているのは事実。多少は平均年齢を下げていきたいという思いはある」と語る。
今年に入ってから、同誌の部数は右肩上がりだという。要因として、1月号から連載が始まった歴史漫画「プリニウス」(ヤマザキマリ、とり・みき合作)の存在が大きいとみる。「私を含め、いまの50代はごく普通に漫画を読んできた世代で、総合誌に漫画があることに抵抗はないと判断した。今までこうした雑誌を手に取ったことのない層が読んでくれており、さらに分母を拡大していきたい」と意気軒高だ。
総合誌の多くは長年にわたりA5判(縦210ミリ×横148ミリ)サイズを採用しており、記事は比較的小さな文字を使った2~3段組みが基本だ。だが、このパッケージを変える試みもある。
総合誌の中でも群を抜いた発行部数を誇る月刊誌『文芸春秋』(文芸春秋社)は、昨年9月号について、大きさを1・11倍とした拡大サイズ版を一部地域で試験販売した。大正12(1923)年の創刊以来、判型変更は初の試み。同誌などを統括する同社第1編集局の鈴木洋嗣局長(54)によると、この拡大サイズ版は5万部を刷り、おおむね好評だったという。「ただ、持つと重いとの指摘も多かった。時代の要請に応じたリニューアルは引き続き研究していくが、90年間同じ形で続けられた初期設計の優秀さは改めて感じる」
拡大サイズ版発売のきっかけは、高齢読者からの「内容はいいが、字が小さくて目が疲れる」との手紙だった。読者の高齢化について、鈴木局長は「認識はしているが、高齢者向けに作っているわけではない」と強調する。同誌は自らを「リアルで知的好奇心の旺盛なひとたちのための雑誌」と位置づけており、マイナーチェンジは今後も重ねていくものの、編集方針などの基本を変えるつもりはないという。
雑誌購読層の高齢化を直接的に示す統計はないが、出版科学研究所の柴田恭平研究員は「誌面を見る限り、高齢者を意識した特集は明らかに増えており、高齢化傾向は間違いない」と指摘する。
出版不況の中、特に雑誌の落ち込みは深刻だ。最大の問題は、新規読者が育っていないこと。編集者の松田哲夫さん(66)も、雑誌の休刊点数が創刊点数を上回る現状や、“高齢者の性”特集に走る週刊誌などを例に挙げ、「かつて最優先課題だった『読者の若返り』をあきらめつつあるのではないか。今いる読者とともに滅ぶ道を選んでいるとしか思えない」と悲観的だ。
現在の読者をつなぎ止めることは重要だが、新陳代謝がなくてはいずれ存続の危機を迎える。そのバランスをどうするか。変化が少ないように見える総合誌の世界でも、試行錯誤は続きそうだ。
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出版ニュース社の『出版年鑑』によると、女性誌やスポーツ誌などを含む月刊誌の年間総発行部数は平成9年の30億3165万冊をピークに減少を続け、24年には約3分の2まで落ち込んでいる。
さまざまな要因が挙げられる中、出版科学研究所の柴田恭平研究員は、特に書店数の減少に注目する。「雑誌は通勤通学の帰りなどで習慣的に買われるもの。身の回りの書店が消えることで、若い世代を中心に本屋に行く習慣がなくなってきているのではないか」