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【企業スポーツと経営】久光製薬、“強さ”が事業と社会貢献に直結
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2013年はV・プレミアリーグをはじめ、史上初の公式戦5冠獲得という偉業を成し遂げた(久光製薬提供)
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スポーツへの支援に消極的な企業が増える中、選手・チームの活躍を経営に生かす企業もある。2020年の東京五輪に向け、企業支援のあり方を探る。連載1回目は久光製薬の女子バレーボール。
日本の製薬会社で唯一の本格的なスポーツチームをもつ企業が、女子バレーボールに特化する久光製薬だ。同業他社が手を出さない企業スポーツに力を入れるのには、それなりの理由があるはず。それは企業イメージを高める広告塔としての存在だけではない。魅力ある選手と強いチームは外へのアピールとともに、社内の活力にも波及する。さらに、目指す世界戦略にも貢献する。
女子バレーボールの歴史は、戦後の紡績工場で働く女子工員たちの息抜きとして、企業が奨励したのが始まりといわれている。昼休みは輪になり、一つのボールを落とさないようトスをつなぎ合う。短時間でも仕事を忘れ熱中でき、連帯感も生まれるからだ。ここから選手が育ち、実業団リーグ戦へと発展していった。
久光製薬は、本社があった佐賀県鳥栖工場(現九州本社)で、1948年にバレーボール部を創設。その後、実業団リーグに参戦し、日本リーグ、Vリーグを経て現在参戦するV・プレミアリーグまで、会社をあげてバレーボールチームを支援してきた。常に優勝候補にあげられるリーグトップの実力を誇る。
チーム名の「スプリングス」は、文字通り明るい明日をイメージさせる“春”と、主力商品である「サロンパス」の“貼る”という2つの意味を込めて名付けられた。
選手たちは実質的な社内業務は担わないが、全員が九州本社に所属する正社員。さらに、フロント、チームを支えるスタッフなどが加わり、神戸市にある体育館を拠点として全国各地で開催されるリーグ戦へと遠征を繰り返している。
久光製薬社長の中冨博隆は、企業スポーツについて次のように語る。
「企業の資産は、数値化された貸借対照表だけに反映されるものではない。会社の個性・文化など無形の資産を大事にしていくのが当社の伝統であり、そこに企業が支援するスポーツがある」
独自性のある会社作りが経営のモットーであり、個性ある企業づくりの一環として女子バレーボールチームがあるということだ。
支援する以上は中途半端な対応ではいけない。チームを統括する久光製薬スプリングス部長の萱嶋章は「福利厚生の範囲から抜け出せない企業チームが日本には多い。そのような限定的な展開ではなく、スポーツマネジメントとは何かを考え、事業にメリットが見いだせる戦略を練り、社会貢献にも資することが大事だ」と強調する。
そのための必須条件となるのが「強さだ。強いチームはブランド力が備わる。優勝を狙えるチームでなければ情報発信力も弱い」と萱嶋は強さにこだわる。弱ければ、自社製品の効果も薄いのではと思われかねないからだ。勝てばチームだけでなく企業も勢いがつく。応援する社員も喜び社内が明るくなる。このような効果が期待できるのは、企業スポーツだけがもつ特色といえよう。
久光製薬にとって、スプリングスは会社の顔。選手たちは社員の代表である。だからこそ負けられない。ブランド力をもつ強いチームが活躍することで、同社が訴求する“貼る文化”を世界に発信していけるはず。萱嶋が考えるスポーツマネジメントがここにある。それを可能にするのが、勝つための戦略。選手を育て競わせること、その手法はビジネスの世界でも通用する。(敬称略)
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1948年 久光製薬鳥栖工場バレーボール部創設
94年 Vリーグ発足
2001年 オレンジアタッカーズ(ダイエー)とチーム統合 ベトナム、ブラジルでサロンパスカップ開催
02年 第8回Vリーグ初優勝 AVCアジアクラブ選手権優勝
06年 日韓V.LEAGUE TOP MATCH優勝
07年 V・プレミアリーグ、日韓戦、黒鷲旗で優勝 公式戦三冠達成
12年 中田久美 監督就任 13年 国体、天皇杯・皇后杯、V・プレミアリーグ、日韓戦、黒鷲旗で優勝 史上初の公式戦5冠を達成