解散風、税改革にブレーキ 政府、与党見直し 同床異夢
政府、与党は2017年度の税制改正で配偶者控除を「夫婦控除」へ転換する抜本的な見直しを断念した。現行制度を拡充する代替案の調整に今週内にも着手する。各方面それぞれの思惑で一時高まった改革の熱気は、首相官邸の慎重姿勢が伝わると、吹き始めた解散風の中で急速にしぼんだ。
◆税制調査会の悲願
「所得税の久しぶりの大改正を考えている。配偶者控除の見直しが一つの柱だ」。自民党の宮沢洋一税制調査会長は8月30日、報道各社のインタビューで「改革実行」を高らかに宣言した。
かつて首相も立ち入れない聖域とされた党税調はここ数年、消費税増税などをめぐり官邸と対立、敗北を繰り返してきた。積年の課題である所得税改革を成し遂げて税制改正の司令塔として復権する-。これは税調幹部らの悲願とも言えた。
安倍官邸は女性の活躍を促す「働き方改革」を看板に掲げる。自民党は「政権内で歩調を合わせて活躍できる絶好の機会」(党関係者)と高揚感を漂わせた。茂木敏充政調会長は「来年の通常国会での法改正を目指す」とさらにアクセルを踏み込んでいった。
だが、所得税をめぐり一枚岩とはいえない財務省の内部事情が改革推進に思わぬ影を落とす。
5月、財務省の佐藤慎一主税局長(当時)が菅義偉官房長官を訪ね、働き方を問わない夫婦控除の創設を含む改革私案を提示した。その翌月、主税局長から35年ぶりに事務次官に直接昇格した佐藤氏は、低収入の共働きが増える現状に合った所得税の大改革へ執念を燃やしていく。
◆財務省内に意見対立
ただ、夫婦控除の実現には税収の埋め合わせが不可欠だ。働き方改革を超えて所得再分配の持論に傾く佐藤氏に対し、省内では「中所得者まで負担増を求めるのは政治的に難しく大減税になる」と慎重論が台頭。見解が統一されないまま政府税調を9月に始動させた。
「自民党の腹づもりも分からないし、財務省に聞いても詳しい説明がない」。綿密な擦り合わせもなく前のめりに進む改革論議に、公明党幹部は困惑を隠せなかった。支持層に専業主婦が多い公明党には「党員や支持者からのいろいろな声」が既に殺到していた。
来年1月の衆院解散を選択肢に見据える首相官邸は終始慎重だった。菅長官は「見直しは時間がかかる話だ」と周囲に語り、膨らむ期待にブレーキをかけた。官邸が強い権力を握る安倍政権では「長官がノーと言うものはできない」(自民党議員)。財務省は9月下旬、現行制度の拡充に衣替えした配偶者控除の見直し案を打診。関係者が同床異夢で飛びついた夫婦控除の構想は早々に腰砕けとなった。
抜本改革は困難となったが、配偶者控除見直しの将来像をどこまで描けるのか綱引きは続く。11日に役員人事を決めた自民党税調は週内にも会合を開き、年末に向けた「第2幕」が始まる。
政府、与党は配偶者控除の年収要件を引き上げることで女性の就業拡大を促す方向にかじを切ったが、負担増の問題はなお立ちはだかる。将来的な改革でも、再分配色を強めれば高所得者への一層の増税が避けられない。格差是正の課題に所得税で対応すべきなのか、財務省内には意見対立がくすぶり続ける。
他省庁幹部は「大きく広げた風呂敷が現実を前に縮み、ハンカチで済ませようという雰囲気になった」とつぶやいた。
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