海外へ「攻めの農業」加速 健康ブームや高級志向が追い風

 
「サツマイモ専用の包装フィルムを開発したことで輸出量が大幅に伸びた」と語る、くしまアオイファームの下出副社長

 日本の農作物輸出が好調だ。海外での和食ブームに加え「安全でおいしく見た目がよい」といった高い評価を背景に、2015年の農林水産物・食品の輸出額は7452億円と3年連続で過去最高を記録。19年には1兆円達成も視野に入ってきた。政府は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に関し、攻めの農業を行うとの姿勢を鮮明にしている。これに呼応する形で、生産者や企業による輸出をめぐる動きが加速している。

 6次産業化の代表

 ニンニクを高温高湿という環境に3~4週間置くことで熟成して黒くなる「黒にんにく」。加工と販売を一体化した6次産業化の代表的な商品で、食べると体温が上昇し体の免疫力が上がるという理由から、健康食品として注目を集めている。海外でも人気があり、主力生産地である青森は6、7日、「第1回 世界黒にんにくサミット」を開催する。

 サミットには昨年12月に行われたルクセンブルクとの首脳会談でのレセプションで、安倍晋三首相の舌をうならせた担当シェフが出席。料理の素材としての使い道を追求する。現在は米国をはじめ先進国を中心に25カ国に輸出されており、サミットを契機にブランド力を強化。関係者は「30カ国程度まで増やしたい」と意気込む。

 日本政策金融公庫が先月開催した、国産にこだわった展示商談会「アグリフードEXPO東京2016」にも、輸出強化に強い意欲を示す農業者や食品加工業者が集結した。

 サツマイモを生産する「くしまアオイファーム」(宮崎県串間市)は、香港やシンガポールに輸出している。熟成させて甘味を強調したイモは現地の富裕層に人気で、年間の輸出数量は300トン。日本全体の2割強を占める民間では最大の業者だ。

 輸出量は「10カ月ほど前から大幅に伸びた」(下出淳平副社長)という。その原動力が住友ベークライトと共同で開発した包装袋。サツマイモの呼吸量を整えるため、フィルムには髪の毛の直径程度の穴が開き結露も発生しないため、腐敗しにくく鮮度を保持できる点が特徴だ。今後はドバイなど中東市場も開拓。生ものの輸入規制が厳しい米国やEU(欧州連合)に向けては冷凍焼きイモなど1次加工品で勝負をかける。こうした取り組みにより、3年後の輸出量は10倍の3000トンを目指す。

 ブランド評価高め

 十勝ハーブ牛の生産を行うノベルズ(北海道上士幌町)は、ベトナムへの輸出を始めた。長期肥育によって赤身が多くジューシーな肉質が売り物で、フランス料理のニーズが高い同国を最初のターゲットとした。これから勝負をかけるのは「アメリカのど真ん中」(園尾眞一・取締役)。ニューヨークの高級料理店への食い込みを図り、ブランド評価を高めてから徐々に広げていく戦略だ。

 一方、京都市中央市場は香港に向け、九条ねぎや万願寺とうがらしなど京野菜の試験輸出に乗り出した。凸版印刷などの技術支援を受け、輸送日数の長い冷蔵コンテナの鮮度保持調査を実施する。

 こうした動きを支えるのは、日本の食材の品質に対する信頼度。タイの輸入会社の担当者は「高級志向が強い顧客からの引き合いがとくに目立つ」と話す。これまでは野菜や果実の調達が中心だったが、これからはカキをはじめとした海産物も積極的に購入する。(伊藤俊祐)