独身・年収1000万円でもマイカー興味なし 「買わずに済ます」生活加速
【消費の壁】(下)
大手総合商社に勤務する男性(29)は週2回、テニススクールに通う。競技志向の上級者を対象にした「トーナメントクラス」が始まるのは午後11時半から。レッスン終了は午前1時半だ。
モノに執着せず
既に電車も動いていない時間だが、自宅の近所で時間単位でコンパクトカーを借りる「カーシェアリング」が彼の足だ。独身で1000万円近い年収がある。だが「駐車場の月極料金などを考えると、カーシェアで十分だ」と、マイカーに興味を示さない。
モノの所有にこだわらない。こうした若者の「モノ離れ」による消費の停滞に、経済界は懸念を強める。レンタルや共有で済むものは購入せずに済ませる「シェアリングエコノミー」は個人消費の見かけ上の数字を押し下げるためだ。
自動車などはこれまで購入が普通で、統計上も個人消費に分類された。だがカーシェアの場合、個人消費に計上されるのはわずかな利用料金のみだ。
シェアリングエコノミーの普及は結果的に「1世帯当たりの個人消費を小さいものにしてしまう」(総務省統計局)という。
同サービスを展開するパーク24は、7月末の会員数が約67万人、保有車両数は1万5467台となった。
4年前に比べそれぞれ5.3倍、3.6倍に膨らんでいる。「マイカー感覚で利用する会員が増えた」(経営企画本部)と市場拡大に手応えをみせる。
米配車サービスのウーバーテクノロジーズや米民泊仲介のエアビーアンドビーなど米国で先行したシェアリングエコノミーは、日本市場にも着実に浸透しつつある。日本総合研究所の下田裕介副主任研究員は「国内でも若者を中心に消費行動は大きく変化する」と指摘する。
ニーズの多様化
こうしたモノ離れが進む市場で、いかに消費を促すか。三越伊勢丹ホールディングスの石塚邦雄会長は「ニーズは多様化、パーソナル化しているからこそ機能面などで消費者が関心を持ち、満足を得る商品であれば高くても売れる」と強調する。
デザイン性の高い家電を手掛けるベンチャー、バルミューダ(東京都武蔵野市)の「ザ・トースター」は1台2万2900円(税抜き)だが、若者を中心に人気が高い。
電気ヒーターと水蒸気で加熱し、焼きたての香ばしさとふっくらした口当たりの「驚くほどおいしいトーストができる」という独自性がヒットの秘密だ。
生活者の嗜好(しこう)とともに消費のかたちは多様化が進む。モノ離れが進む若者の消費を促すには新たな価値の提供が必要だ。そこに、次代につながるビジネスのカギがある。
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この企画は平尾孝、松村信仁、中村智隆が担当しました。
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