消費増税の再延期、新聞各社の社説の論調は? 毎日と朝日は真っ向反対
【社説で経済を読む】
産経新聞客員論説委員・五十嵐徹
来年4月に予定されている消費税率10%への引き上げが、再び見送られそうだ。安倍晋三首相は、2016年度予算の成立を受けた3月29日の記者会見で、「予定通り引き上げていく考えに変わりはない」と述べたが、「日本経済自体が危うくなるような道を取ってはいけない」と含みも持たせた。
メディアは、首相は7月の参院選に衆議院解散をぶつけて同日選とし、増税の再延期を争点とするのではないかとの見方を強めている。報道上は、観測の域をはるかに超え、いまや既定方針の様相だ。
首相の記者会見を受けた30日付の各紙社説は、改めて増税再延期の是非についても言及しているが、明確に再延期を支持したのは全国紙5紙では産経だけだった。
「やむなし」と産経
産経は「デフレ脱却の途上にあり、景気回復の実感には乏しい。環境が整っていない状態で、景気をさらに落ち込ませる政策はとるべきでない」との見方から、「再延期という選択はやむを得ないだろう」と述べた。
23日付の主張(社説)でも、「デフレの泥沼に戻ると明確に判断するなら、延期という選択肢も必要だ」と述べており、さらに踏み込んだ形だ。
しかし、再延期となれば、17年度予算で数兆円規模と見込まれる歳入の穴をどう埋めるのかが差し迫った課題となる。日本は、いまや1000兆円を超える借金大国で、財政は先進国中でも最悪のレベルにある。
政府は基礎的財政収支を20年度までに黒字化する目標を掲げているが、その達成が危うくなれば、日本経済そのものへの信認が揺らぎかねない。
産経は30日付で、再延期は「アベノミクスのどこに問題があり、何を補うべきかをしっかり吟味すること」が前提だとし、「前回の延期判断から今に至るまでの、政策効果を厳しく検証することが欠かせない」と厳しく注文している。当然のことだ。
これに対して、再延期に真っ向から異を唱えたのは毎日と朝日。毎日は「リーマン級の危機なら再延期もやむを得ないだろう」とした首相の発言を引き、「今の景気は再延期しなければならないほど深刻なのか」と否定的な見方を示した。
朝日も、「再延期は念頭にない」と繰り返す首相の国会答弁に対し、「額面通りには受け取れない」と不信感を表明。同日選に絡めることには、とりわけ警戒感を示し、「有権者への給付を増やし、負担増は避けて、勝利を目指す。そんな思惑が込められているのは明らか」と首相の言動を強く牽制(けんせい)した。
朝毎両紙に共通するのは、消費税増税の再延期は、3年余りのアベノミクスが完全に行き詰まっている証左とする見方だ。
毎日は、首相が一昨年の解散時に「延期を決めた際、『再延期はない。(旧)三本の矢を前に進め、(増税できる)経済状況を作り出せる』と明言していた」と指摘。「仮にどうしても増税できない状況だというのなら、アベノミクスの失敗を認めるのが先だ」と断じた。
朝日は退陣要求も
朝日も、「衆参同日選は間違いだ」と題した27日付社説で毎日の指摘に同調。「それができない経済状況を招いたというなら、アベノミクスの失敗を自ら認め、潔く退陣するのが筋だろう」と辞任要求に踏み込んだ。
朝毎の主張は、先月27日に民主、維新両党の合流で発足した民進党の論理とも一致する。
ただ、個人消費が依然伸び悩む中での消費増税には、民進党内にも慎重論がある。朝毎両紙も、なにがなんでも再延期に反対なのかといえば、そうでもない。1つだけはっきりしているのは、消費税増税の再延期を争点にした同日選には反対だということだろうか。
同日選は戦後2回あったが、いずれも自民党が圧勝している。朝日は27日付で「衆参同日選は筋違いだ」とする社説を掲げている。
「同日選は、任期や解散の有無など制度の異なる二院を置くことで国民の多様な意思を反映し、一院の行き過ぎを抑制するといった憲法の趣旨をないがしろにすることは間違いない」との主張だ。
一見もっともらしいが、本音は、同日選で国会の改憲勢力が拡大することを恐れているからではないか。朝日は「議席の上積みを図るのが真の狙いだとしたら、解散権の乱用」で、「同日選を正当化する理屈は、見いだせない」という。だが、これでは選挙で多数派形成を目指すという議会政治の根幹を否定することになり、説得力を欠く。
ただし、選挙は水物だ。仮に首相が消費税増税の再延期を争点に同日選に踏み切ったとして、必ず勝てる保証はない。
今国会では閣僚らの失態や自民党議員の不適切な発言も目についた。「一強多弱」のおごり、緩みだとしたら政権の先行きは危うい。安倍首相は心すべきだ。
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