日銀3月短観 アベノミクスに停滞鮮明 消費税8%以来の悪化 

 

 日銀が1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)で、大企業と中小企業の製造業と非製造業の景況感がいずれも悪化した。4つがそろって悪化するのは、消費税率を8%に引き上げた直後の平成26年6月調査以来。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が目指す経済の好循環が足踏みを見せたことで、日銀の追加金融緩和や消費税再増税の先送りを求める声が高まりそうだ。

 「受注が5%、10%と伸びる時代ではない。いかに収益を出していくかが大事だ」(日立製作所の東原敏昭社長)

 「足元でそれほど強い消費が生まれている感覚はない。夏商戦で明るい兆しが出ないと厳しい流れになるかもしれない」(ローソンの玉塚元一社長)

 年度初めのこの日、業績が比較的好調な企業の経営者からも、景況感の悪化を警戒する言葉が漏れた。経営者たちを不安にさせているのは、中国をはじめとする新興国経済の失速や、円高・株安などの要素だ。

 集計企業の平成27年度の経常利益計画は前年度比4・3%増だが、28年度は2・2%減と先行きを厳しくみている。農林中金総合研究所の南武志主席研究員は「現状の円高水準が長期化すれば、先行きの業績の下押しにつながる可能性もある」と指摘する。

 一方、今回の短観には、日銀が2月16日に始めたマイナス金利政策の効果も一部で出始めている。金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」と答えた企業の割合から「厳しい」と答えた割合を引いた値)は、中小企業でプラス20とバブル期の元年11月調査(プラス26)以来の高水準だった。借入金利も全規模全産業で大幅な低下を表す数値が出ており、企業を取り巻く金融環境は一段と緩和してきた。

 28年度の設備投資計画は前年度から下ぶれしたが、全国銀行協会の国部毅会長(三井住友銀行頭取)は「資金調達に前向きな顧客企業も多い」と今後の投資の伸びに期待する。銀行や保険の景況感は悪化したものの、住宅ローン金利の低下などで住宅や不動産関連は改善した。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「マイナス金利政策のプラス効果が早々と見えてきたので、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は自信を深めて、4月の金融政策決定会合で追加緩和に打って出る可能性がある」と予測する。(米沢文)