「国連は韓国の庭ではない」 朴槿恵大統領の厚遇ぶりに国内から批判の声も

 

 【ソウル=名村隆寛】韓国の朴槿恵大統領が9月末にニューヨークの国連総会で、またぞろ慰安婦問題などに関して日本を批判する演説を行った。しかし、韓国メディアが注目したのは、演説ではなく、朴氏に対する潘基文国連事務総長の厚遇ぶりだ。朴氏の4日間のニューヨーク滞在中、潘氏との同席は7回。さらに朴氏の父、朴正煕大統領が推進した政策をテーマにした“国際会合”を開き、その業績を持ち上げた。国連行事の場で他の加盟国への遠慮も見せない韓国の2要人に対し、「国連は韓国の庭ではないのだが」との声も聞こえてくる。

 朴大統領は国連総会の一般討論演説で「第二次大戦当時にひどい暴力を経験した女性の心の傷を女性が生きているうちに癒やすべきだ」と慰安婦問題の解決を要求。さらに、歴史問題について「過去を認めずに未来を切り開く道はない」と述べ、名指しは避けつつも、安倍政権に対応を求めた。

 朴氏はまた、「北東アジア安保秩序に重大な影響を及ぼしかねない新たな動きがあり、域内に憂慮をもたらしている」と日本の安全保障関連法の成立に暗に触れた。その上で、「地域の平和と安定に役立つ方向で透明性をもち履行されなければならない」とクギを刺し、注文を付けた。

 朴大統領のこの手の演説は、海外でもすでに“恒例化”しており、新しいものではない。韓国の世論に沿う、国内を強く意識した演説だ。

 朴氏の国連外交に疑問の声が出たのは、朴氏と潘氏の接近ぶりについてだった。

 韓国メディアによると、潘氏は今回も、朴氏を公邸に招き晩餐(ばんさん)会を開くなど、4日間で計7回も同席した。また、事務総長なら、総会のホスト役としての多忙さから、ほとんど出席できないとされる関連行事にも足を運んだ。

 朴正煕大統領(当時)が推進した農村振興運動「セマウル運動高官級会合」へ参加し、同運動を称賛。朴氏が笑顔で謝意を示す一幕もあり、まさに「慣例にない破格の礼遇」(東亜日報社説)だった。

 韓国の元外相である潘氏は、2017年の次期韓国大統領選への出馬が取り沙汰されている。「内政への関心はない」と言う潘氏だが出馬は否定していない。このため、韓国世論(メディア)は、「朴氏が潘氏を後継者にするのではないか」との疑念が渦巻いている。

 韓国の与党セヌリ党には、朴氏に近い「親朴派」の大統領選の有力候補がおらず、朴、潘両氏が接近しているのではとの見方だ。東アジア初の国連事務総長として高い知名度を持つ潘氏は最近の世論調査でも大統領候補としての支持率は21・1%とトップだった。

 同じ韓国人なのだから、国連という場でも、母国語の韓国語で世間話もするだろう。しかし、4日間で7回も会うというのは、他の192の加盟国の目にはどう映るのだろうか。 

 さすがに韓国メディアも「残り任期中に、国内政治に気を使うよりも、国連トップとしての役割を果たすことが最善」(東亜日報)と苦言を呈した。

 朴氏に対しても、各国首脳が北朝鮮問題を議論するなか、内政に気を使いすぎて安保外交をおろそかにしてはならない、との批判もある。

 さて、朴、潘両氏は9月3日に北京で行われた「抗日戦勝70年」の軍事パレードを天安門の楼上からともに観閲した。物議をかもした潘氏の出席は、韓国では「大統領選を見すえた国内政治向けだ」との噂が広がった。

 韓国の最も著名な2要人は、9月に2度も国際社会が見守る中で“目立って”しまった。国際社会という言葉は、韓国メディアが日本をこき下ろす際に、必ずといっていいほど使うが、その国際社会は、民主主義圏に属する2人の行動をどう評するだろうか。

 4月に安倍晋三首相が行った米議会演説の前に、韓国は官民挙げての猛烈な安倍非難、反対運動を展開した。その執拗(しつよう)さが米国や日本をうんざりとさせた記憶は現在も生々しい。

 国連があたかも「韓国の庭」であるかのように受け取られかねない振る舞いは、韓国のマイナスイメージを世界に植え付け、広めることにもなりかねない。