日本女性の日傘は特異なのか? 訪日外国人の反応は否定的なものばかり…

 
強い日差しを日傘で避ける女性たち=大阪市中央区

 夏になれば、まちのあちこちで見られる女性の日傘。美白ブームもあって若者から年配まで年齢層に関係なく愛用するようになった。だが、訪日外国人でにぎわう大阪・ミナミで、韓国、中国、米国、オーストラリア、スイス、オランダ、イタリア、フランス、タイの女性に聞いてみたところ、「使わない」という返事が戻ってきた。しかも、ほとんどが「一度も使ったことがない」と答え、日傘を使うことに「おかしい」という感想も。外国人を対象としたアンケートでは、驚くなどした日本の熱さ対策として「日傘をさす」をあげた回答が最も多かった。日本の日傘文化は世界では“特異”に見えるのだろうか。(張英壽)

 外国人の対策は日焼け止めクリームが主流

 「日傘は真夏でもしないですね。どんなにカンカン照りでも…。おばさんが使うもの」

 韓国ソウル市の女子大学生、閔智援(ミン・ジウォン)さん(21)はこう答えた。

 世界各国から来た人々でにぎわう道頓堀周辺(大阪市中央区)で、各国の女性たちに日傘をさすかどうか質問した。

 閔さんは日傘はささないものの、「日焼けは嫌なので、日焼け止めクリームを塗ったり、薄い長袖の服を着たりする」という。

 韓国首都圏の仁川市の専門学校生、李ハナさん(21)は1年間、日本に留学した経験があり、「日傘の人をたくさん見た」というが、韓国ではそんな光景は「ほとんどない」と語る。

 道頓堀のベンチに座っていた中国・上海市の女性(26)も一度も使ったことがなかった。「日傘は年取った女性がさすもの」といい、「傘は雨のときだけ。日焼け止めクリームも使わないし、日差しは気にしません」。説明のために、タブレット端末で、日傘とモデルの画像を見せると、「モデルの顔はかわいいのに、日傘と合っていない」といぶかしんだ。

 ドラッグストアで働いていた中国・四川省出身の陳子●(=木へんに貞)さん(24)も日傘をさした経験はなく、中国での日傘事情について、「日傘をさすのは30代以上」と流暢(りゅうちょう)な日本語で教えてくれた。

 オーストラリアの女性医師(24)も、「ネバー(一度も使ったことがない)」と英語で答え、日傘をさす習慣について「ストレインジ(おかしい)」と話した。米カリフォルニア州からやってきた16歳と19歳の少女も「ネバー」で、「白い肌だと健康的ではない」という。ただ「ハット(周りに縁がある帽子)はかぶります。日焼け止めクリームも塗る」と打ち明けた。

 「焼ける方が健康的」との答えも

 若い世代だけではなく、もっと上の世代でも同様だった。

 米シアトルからビジネスのために来日した女性(45)も「さしたことがない。傘は雨のときだけ」。米シカゴの会社員の女性(50)は同じく使用経験がなく、「日焼け止めは塗るけど、焼けるほうが健康的」といい、そばにいた日本人通訳と腕を見せ合うと、通訳のほうが白かった。

 イタリアからハネムーンで来日し、夫と道頓堀を散策していたジャーナリストのモニカ・タリコーネさん(27)は「イタリアでは使わない。みなバケーション(休暇)に行くので、白い肌は健康的ではない」。日傘効果のせいか「日本人のほうがイタリア人より肌が白い」と印象を話した。

 日差しが強い熱い国ではどうなのだろうか。タイ・チェンマイから来たホテルオーナーの女性(33)も日傘経験がなかった。「使うのは雨傘だけ。白い肌になりたいのはタイでも同じだけど、日本の日傘習慣はちょっと変」と感想を述べた。

 バブル時代は「健康的」だが、シミできて後悔

 空調メーカーのダイキン工業は一昨年、東京在住の外国人100人を対象に「東京の夏の暑さ」をテーマにしたアンケートを実施した。その中で、「東京の夏の暑さ対策で、感心した・驚いた対策があるか」と聞いたところ、1位は「日傘をさす」(46%)だった。このアンケートは複数回答だったが、半数近い外国人が「日傘」の珍しさに注目したことになる。

 「ちょっと変」と言われた日傘ファンの日本人女性はどう考えているのか。

 一般の日本人女性の声を聞くために、道頓堀から少し離れた南海難波駅前で質問した。

 「梅雨の時期でも、日傘は持ち歩いている」という兵庫県伊丹市の会社員、與那覇瞳さん(22)は「自宅から最寄りの駅や駅から会社に向かう際にさす」と話した。いつからさすようになったか問うと、「中学3年生のときから」と教えてくれた。中学3年といえば、女子でも部活などで日焼けする年頃だ。日傘はそんな世代まで使うようになっている。

 大阪市平野区の女子大学生(21)は「肌が黒くなのが嫌なので日傘は使う。日焼け止めクリームも欠かさず塗っている」と話した。日傘は大学生になってさすようになったという。

 今でこそ日本では、若い女性が日傘をさすのは普通だが、今から30年ほど前のバブル経済時代やそれ以前は、若い女性たちは今ほど、日傘をささなかった。その時代を知る世代の女性にも聞いてみた。

 「若い頃、日傘はおばさんがさしていて、持とうという気はなかった」という堺市南区の会社員の女性(47)。「20代前半のころ、日焼けするのが格好よかった。化粧品のCMでも、真っ黒になった女性が登場しました。焼けたほうがステータスがあった時代で、健康的でいいというイメージだった」

 道頓堀で聞いたイタリアや米国の女性の「焼けたほうが健康的」という意見と一致する。日本もバブル時代までは、そうだった。

 しかし、「今はシミがたくさんできて後悔している」と打ち明ける。「若い頃も、中には肌を白くしようとする女性はいました。そんな人は今シミがない。『負け組』と『勝ち組』ができています」。この女性は10年ほど前から日傘を持つようになったという。

 UV加工された日傘が日本の若い世代に支持

 日傘をさす習慣は日本だけなのだろうか。

 洋傘・日傘メーカー大手の「ムーンバット」(本社・京都市下京区)で、長年にわたり製品を開発してきた大原孝二さん(70)は「日傘文化は日本しかない」と指摘する。「ヨーロッパでは紫外線を遮ることにそれほど関心がない。また紫外線が強いオーストラリアでは帽子が主体。中国や東南アジアでは、日傘という概念自体がなく、日差しが強いときは、雨傘を日傘として使うことがある」という。

 確かに道頓堀の街頭で外国人に質問すると、日傘とは何かすぐにはわからないケースもあった。ただし中国の大都市では最近、日傘が販売されるようになったという。

 大原さんによると、日傘はもともと19世紀のフランスで文化として花開いた。フランスの印象派の画家、モネも、日傘の女性を描いている。現代のヨーロッパではどういうわけかその習慣が廃れ、日本のみで定着している格好だ。ただ、ビーチパラソルや庭に置くガーデンパラソルは大きな市場になっているという。

 一方、日本では和服とともに日傘は愛用されたが、若い女性には人気がなかった。変化が起きたのは、二十数年前にUV(紫外線)用の加工がされた日傘が市場に出てからだ。それまでUVカット率は50%程度だったが、UV加工の日傘は80~90%台のカットが可能になった。このため、若い女性もさすようになり、現在のように若者から年配まで日傘をさす習慣が広がった。色はかつて白やベージュが多かったが、遮蔽率が高い黒が主流になったという。

 大原さんの説明では、日傘をさす習慣は日本独特ということになる。

 専門家は「帽子より日傘が有効」と指摘

 ヨーロッパでなぜ日傘の習慣が廃れたか気になるところだが、洋傘メーカー約50社でつくる日本洋傘振興協議会広報室の担当者は「日傘について海外のデータは持ち合わせていないが、ヨーロッパでは、日が出ていると、浴びようという欲求があると聞く」と話す。

 ただ、化粧品メーカーの資生堂技術広報グループによると、紫外線による「光老化」という現象が注目されており、シミだけでなく、しわや、たるみを引き起こすこともわかってきたという。こうした中で、日本では美白ブームが起こり、日傘の使用が広がっている。

 日本臨床皮膚科医会理事の岡村理栄子医師は「日傘は紫外線や赤外線をカットし、その結果、熱を遮る。帽子か日傘プラス日焼け止めクリームをするのがいいが、日傘は帽子より広い範囲をカバーするので効果が高い」と話している。