鹿革に漆や顔料で色づけ、飾りを施した「印傳(いんでん)」は、丈夫さと柔軟さ、そして装飾性から、日本人の日常で用いられてきた。山に囲まれた甲州の自然の恵み、さらに武田信玄という希代の武将が愛用したことをきっかけに、日本中に広がった「甲州印傳」の伝統を受け継ぐのが、「印傳の山本」である。「RE-DESIGN ニッポン」の第18回は、この「印傳」の新たな取り組みを紹介する。
限りある資源で作られたもの
「甲州印傳」は、なぜ生まれたのか。鹿革に型紙を用いて漆を塗り、顔料で色彩を描き出す。この技法を知ったとき、奈良生まれの私としては、非常に気になった。奈良も山岳地帯などに、鹿がたくさんいる。海がないという共通点もある。しかし、印傳の技法は甲州にしかない。なぜか。
「日本アルプスや富士山など、四方を急峻(きゅうしゅん)な山々に囲まれて他地域との交流も難しく、しかも資源が豊富ではなかったことが大きかったと思います」