『今、やばいことをしてしまったぞ、俺は…』とぞっとしました」。甲斐は恐縮する青山監督をかばいながら、「ミュージシャンというものは“生もの”を扱う職業だから、パフォーマンスでは1回目からスイッチが入ってしまうものなんですよ」と解説してくれた。
青山監督が作品のテーマ曲に甲斐の「HERO(ヒーローになる時、それは今)」を選んだのは、それが憧憬(しょうけい)してやまない同郷の大先輩、甲斐の出世曲で、思い出深いものだったからだ。「子供の頃から聞いていた甲斐バンドが全国区になり、同じ九州は福岡県の人間として、それが子供心にうれしかったんです」。長じて後、映画監督となって対峙(たいじ)した甲斐の印象は「常に殺気を持っている方。ニコニコしていてもどこかに殺気が感じられるんです。怖くて油断なりません」。
「それは褒め言葉に聞こえるよ」と甲斐。何か一味違う自己表現の可能性を意識的に追求してきた結果と言いたげだ。10年後の甲斐はどんな方向へと突き進んでいるのだろう。「お客さんに変化を見せるのがプロフェッショナルだと思います。世界遺産の薬師寺でライブやったのもそうです。僕の変化を楽しんでもらえればうれしいですね」。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:蔵賢斗/SANKEI EXPRESS)