そんな甲斐を「いつも一緒に行くバー」で映画への出演を口説いたのが青山監督だった。2人は旧知の間柄で、同じ九州男児。お互いの微妙な気持ちを感じ取り、意見をすり合わせ、最後には一致させることなど、たやすいことで、青山監督に言わせれば、それも一瞬でできるという。「『出演をお願いします』と言ったとき、甲斐さんは『もう流れとしてそう(出演)なんでしょ?』と理解してくれていましたからね」。玉にきずなのは役柄の説明が舌足らずだったこと。「甲斐さんに『バーで急にハーモニカを吹く人』と切り出したら、『そんな客は普通いないだろう』といきなり突っ込まれてしまいまして…」。苦笑いを浮かべる青山監督に対し、甲斐は「でも作品を見たら、うまい編集だなあと思いましたよ。さすがです」と謝意を伝えた。
変化見せるのがプロ
甲斐は根っからのミュージシャンなのだろう。演奏が演技に変わっても常に全力投球で最高のパフォーマンスを披露するスタイルに変わりはない。多くの俳優たちを相手にしてきた青山監督は、甲斐との意識のずれを反省点に挙げた。「最後に甲斐さんがハーモニカを吹く場面があり、僕は演奏シーンを2回お願いしたんです。実は1回目の演奏を撮っていませんでした。甲斐さんは『1回目の方がよかった』と言うのですが、僕は対応できません。