ウクライナ軍が、このような地対空ミサイルを親露派武装勢力に奪取されるような、低水準の能力しか持たないことが、シンドラー長官の発言で露呈してしまった。しかも、ウクライナ政府は、ウクライナ軍が管理するブーク・システムが、親露派武装勢力に流れたことはないと断言し続けていた。シンドラー長官の証言が事実ならば、ウクライナ政府が嘘をついていたことになる。
親露派武装勢力は、ロシア政府の統制に服しておらず、また、十分な規律も確立していない野戦集団だ。このような危険な集団にブーク・システムを提供したのがロシアでないということをドイツが明らかにしたことは、政治的にプーチン氏を利する効果をもたらす。これによって、マレーシア航空撃墜事件に対する責任をロシアは回避できるようになった。その分、ウクライナの軍備管理に対する不安が国際社会で高まり、窮地に陥る。ドイツは、巧みな手段を用いて、ウクライナ問題についてドイツと国際社会の世論をロシアに有利にする方向でインテリジェンス活動を展開している。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)