家族巻き込み破滅
ここでK氏が絡む。K氏が勤めた企業はソ連の要請で、禁輸対象であるスクリューの製造可能な大型工作機械を不正輸出。ソ連はこの機械を使い、原潜などのスクリューが出す泡=キャビテーションを減らし、スクリュー音を劇的に引き下げた(既に静粛性を向上させていたとの異説アリ)。
甘い罠に絡め取られたK氏は恐ろしさの余り米国に亡命申請。CIA(米中央情報局)は聴取後、日本側に通報した。
K氏に取材したのは、桜の名所として名高い都内のホテルだった。事前の取材交渉は慎重を期した。東京西部の自宅マンションをアポなしで初めて訪問、真っ先に小声で尋ねたのは「玄関先で話せるのか」。K氏は見込み通り「家族思い」だった。以降、家族には記者であることを伏せ、取材の説得に向け数回、近くの公園などに呼び出した。K氏は深く後悔する生身の人間に見えた。
ウォーカーは悪魔だった。海軍々人の末っ子に情報を盗ませた非道は述べたが、当初末っ子は高校を中退していた。そこでウォーカーは、退役後開業した私立探偵事務所で、末っ子にスパイのイロハを学ばせる。続いて、海軍入隊を視野に復学させ、卒業証書を取らせた。末っ子は子供4人の内、最も父を慕ったというから哀れ。しかも、末っ子のリクルート以前に、米陸軍々人の末娘を引き込もうとした。ところが、末娘が妊娠→結婚、家庭に専念したことで狙いを末っ子に替える。