退役を見越し、現役の海軍上級曹長や米海軍艦艇のオーバーホール会社に勤める兄の退役海軍少佐をリクルート。空母乗組員の末っ子も巻き込み、一味は米ソ開戦時の対ソ攻撃基本計画という、超弩級情報まで盗撮し持ち出した。他に、米軍基地や空母から、新型暗号機の技術マニュアルや規約▽第7艦隊旗艦が被弾した場合、被害を極小に留め、艦を最大限安定させるダメージ・コントロールの技術水準▽強襲揚陸艦/戦闘機/巡航ミサイル/軍事衛星/新型機雷に関する資料…などを写しまくる。
小欄は、対ソ潜水艦作戦司令部で入手した海底固定聴音機(SOSUS)の設置位置などを網羅した情報に興味をそそられた。SOSUSは、敵味方水上艦/潜水艦のスクリュー音を集める目的で海底に仕掛けた、集音マイクのような機器。スクリュー音は集音→蓄積→音紋化→分析される。結果、例えば、米攻撃型原子力潜水艦は、対米核攻撃という切り札を維持するため、海中に潜み続けるソ連戦略原潜などを気付かれずに追尾し、開戦直後に撃破できる。
音紋は指紋同様、スクリューの形状・規模や研磨により艦ごとに千差万別。にもかかわらず、スクリューが発する泡の音などを材料に、音紋解析を驚くべきほど正確に行っていた米海軍の実力が、一味の情報でソ連海軍の知るところとなった。急務となった消音化には、精緻な研磨や微妙に折り曲げる高度技術の蓄積が不可欠だったが、日米などの一部企業が国家的財産として囲っていた。