人物の言動は主観的に
イ監督は、父親と刑事のモノローグが大部分を占める原作とは一線を画し、新たな角度から作品を描こうと、2人の会話をふんだんに取り入れる手法をとった。登場人物たちの言動も、とりわけ主観的に、情感たっぷりに描いた。「実際、殺人事件の当事者になれば、よく考えてから行動するような精神状態にはなく、本能に突き動かされるまま行動に走ってしまうだろうと考えたからです」。そこは作中の出来事を客観的に描いた寺尾聰主演の邦画版「さまよう刃」(2009年、益子昌一監督)と意識的に差別化を図った点でもある。
脚本の執筆で苦労したのは、様々に入り乱れる登場人物たちの視点をどう交通整理して、一つの場面へと視覚化していくかだった。「原作では刑事が日本の少年法の難点をせりふで説明しています。でも、映像でそれをそのまま表現するわけにはいきません。脚本の初稿では一つの場面に父親、刑事、加害者といったいろいろな視点を登場させました。最終的には彼らの視点を最小化した形で盛り込み、脚本としました」