CG使用なるべく避けた
筆舌に尽くしがたい大災害を扱ったわりには、全体を貫くトーンが明るい。アンダーソン監督の説明はこうだ。「映画の中でベズビオ火山がいずれ噴火すると、当然ながら観客の皆さんは分かっているわけです。だから、僕は途中まで噴火を忘れさせてしまうような物語の構成を考えました。主人公のマイロが生きるためにグラディエーターとして戦い、身分違いの恋に落ち、ポンペイを食い物にしようとする悪役への復讐(ふくしゅう)を誓う。古典的な英雄物語を描いたうえで、観客に噴火を思いだしてもらうようにしたのです」
登場人物たちは実際にポンペイで見た石膏像からインスピレーションを得て作り上げた。「アフリカ系の大柄の男が尊厳に満ちたたたずまいで死の瞬間を迎えていました。恐怖に身を縮めている兵士の姿、目を見つめ合ったまま死ぬことを選んだ恋人同士の姿が、心に深く刻まれました」。当時の風景についてもリアリティーを徹底的に追求しようと、コンピューターグラフィックス(CG)の使用をなるべく避けた。「『バイオハザード』ではCGは約3000カットあったが、『ポンペイ』では600カットもなかったはずです。世界中の火山の噴火風景を撮影し、噴き出すマグマの飛び方まで研究したほどです」。アンダーソン監督は画期的な映像技術を使えば使うほどリアリティーから遠ざかるジレンマを強調した。