僕は当時、明治座の五月公演「居残り佐平次」に1カ月、落語家ではなく役者として出演中でした。役者としての舞台経験は浅かったため、この1カ月公演のことは今でも忘れられません。主演を務めた風間杜夫さんとは、この舞台がご縁となり、今では二人会をよく演らせていただいております。
訃報を聞く 舞台を務める
祖父の亡くなった日、母からの電話で祖父のことを聞き、明治座の公演に向かいました。その日は午前11時からの昼の部1回公演。公演中に既にテレビのニュースで訃報が流れ、それを楽屋で見た俳優の渡辺哲さんが僕の楽屋へ飛び込んできて「じいちゃん亡くなったなぁ…お前は大丈夫か?」と真っ先に心配してくださったのが今でも忘れられません。明治座代表取締役会長の三田政吉さんがわざわざ僕の楽屋へいらっしゃり「花緑さん、申し訳ないが務めてください」「もちろんです。しっかり演らなければあの世の祖父にしかられます。務めさせていただきます」。そんな会話を交わして公演が終了後、急いでタクシーで実家へ。既に大変な数の報道陣が家の前にいて、囲み取材を受けました。でも何をしゃべったかは忘れました。ただ江戸家猫八師匠がマスコミの対応に慣れていらして、その時もたくさんの報道陣との間で橋渡しをしてくださったのは覚えています。