新作「アバンダンド・シティ」は、原発事故で人が消えた街や陥没によって消えた村など実在する廃虚をテーマにしており、社会的なメッセージを織り込んでいるのも興味深い。とにかく、ピアノという楽器の可能性を感じさせてくれるサウンドだ。
ジャンルを超えて
一方の竹村延和も、現代音楽に影響を受けたユニークなアーティストの一人。1990年代にはクラブミュージックで注目を集めた後、ソロ作品では一転して子供の無垢な世界を表現し高い評価を得た。現在はドイツで活動を行っている。12年ぶりのオリジナル作品として話題を集めているアルバム「ツァイトラウム」も彼にしか生み出せない独創的なもの。ピアノや管弦楽器、エレクトロニクスなどさまざまな音の断片が細切れに組み合わさり、日本語とドイツ語の朗読が挿入されていく。ミュージック・コンクレートといわれるコラージュ音楽に通じるが、万華鏡をのぞいているかのようなカラフルな世界は、実験的ながら敷居を高く感じさせない親しみやすさがある。(音楽&旅ライター 栗本斉(ひとし)/SANKEI EXPRESS)